「すみません。頼みたいことがあるんですけど、今いいですか?」
居間を覗くと、こたつでパソコンを開いているディアボロさんと目が合った。
今日はディアボロさんの天敵とも呼べる人外二人組がいないので、住処である押入れから出てきているようだ。心なしか生き生きとしている。
「忙しいから無理だな」
「ここから見えてますからね。ゲームしてるの」
バレないとでも思っているのか。というより、パソコンを遊び以外で使っている姿をまず見た記憶がない。悔しかったのか「ちっ」と舌打ちをしたディアボロさん。観念したようにパソコンを閉じた。
「仕方ない、手短に頼む」
「私のこと抱きあげて欲しいんです」
「なっ……!?オレは、たしかに名無子のことは気に入っている。だが物事には色々と段階があるだろう。勿論、名無子を拒否しているわけじゃあないぞ。しかし、急に言われても、心の準備が……」
「ちょっと。なんか勘違いしてませんか」
「……抱いてって言ったんじゃ無いのか?」
「違いますよ。もう、ギャルゲーのやり過ぎなんじゃないですか?現実と二次元の区別はつけといた方がいいですよ」
「ち、違う!!」
ディアボロさんは顔を赤くして狼狽えていたが、そばに転がっている、ゲームのパッケージに描かれた可愛い女の子がこちらを見つめている限り、何を言っても無駄な気がする。
「洗面所の電気が切れてるんで、電球換えたいんです。別に抱っこじゃなくて、ディアボロさんを踏み台にしてもいいんですけど」
「名無子になら」
「やめてください冗談です」
加虐を愉しむ趣味はないので、心の底から冗談だったのだが意外にも乗り気な返事が返ってきて怖い。あれだけ毎日死を経験すると痛みが心地良く感じるのだろうか。いや、考えるのはやめておこう。

***

「届くか?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
埃を纏った電球を取り外し、新品を取り付ける。使えなくなったものはディアボロさんに手渡した。次のゴミの日に忘れずに出さなきゃ。それにしても。片手でもふらつかず、楽々私を抱えられるのはさすがと言ったところか。
「一応ボスなんですね」
変な色をした頭を見ていると、ディアボロさんと目が合う。「何か言ったか?」と一言。話聞いてなかったのか、と突っ込みそうになりながら、褒めて調子に乗られても鬱陶しいので「何でもないです」と返した。
「娘と仲がよければ、こうして抱っこしてやることも出来たんだろうか」
「えっ……娘さんいるんですか」
「ああ。十五の娘がいる。言ってなかったか?」
「今年一番の驚きですよ」
「俺も存在を知ったのは、割と最近だからな。今も会ってはいない。断られている」
「喧嘩でもしたんですか?」
「殺そうとした」
「生きてるだけでもありがたいと思うレベルですよ、それ」
「そうなのか……」
ディアボロさんは寂しそうに肩を落とした。この人の辞書には自業自得という言葉がないのか。殺されかけた人に会いたいなんて思う人がいるなら逆に会ってみたい。ディアボロさんだって、ジョルノジョバァーナの名前を耳にする度に、ガタガタと全身を震わせていることを私は知っている。それでも、血が繋がっている娘となると別なのか。そもそもなんで殺さなければいけなかったのか。考えれば考えるほどドツボにはまりそう。まあ、でも。
「手伝ってくれたので、今だけは私のことを娘だと思っても許してあげます」
「上から」
私も甘いな、と思う。文句を垂れつつも、ディアボロさんはどこか嬉しそうだった。この腕から解放されるのは、もう少し先になりそうだ。
「なあ、名無子。もう一ついいか」
「お父さんと呼んでくれ、は無しですからね」
「くっ……」

(家族で15題/TOY様)

ALICE+