「起きろクソ共、大変なことが起きた」
正午を過ぎたというのに未だ眠る男達に向け吉良は言った。
「後にしてくれ。夜遅くまでドッピオと電話をしていて寝不足なんだ」
「私は寝たばかりだぞ……頼みごとなら他の奴にしろ」
「私もこれから教会へ行こうと思っていてね」
「このカーズは聞いてやらなくもない。その代わりピカチ○ウのぬいぐるみが欲しい」
(こいつら全員爆破させたい……)
もしここにいるのが、スタンド使いのみなら吉良も迷わず爆破していただろう。だがその欲求をぐっと噛み殺し、自身の背後に隠していた何かに向かって「おいで」と手招きし男達の前に見せた。
「どうした名無子、吉良の後ろなんかに隠れて」
「いいか、落ち着いて聞け……」
ただならぬ空気に、騒がしかった男達も自然と静まる。吉良はゆっくりと口を開いた。
「名無子が……記憶喪失になった」
しんと静まり返った空気の中、「……プッチ」とDIOが呼びかけた。プッチはDIOの言いたいことがすぐにわかったようで「私は何もしていないよ」とすかさず否定した。
「どうやらこの家に来る以前の記憶はあるらしい。そうだったな?名無子」
「はい。自分の事はわかるんですが、皆さんの事が全く記憶になくて……。吉良さんから、私がここで皆さんと一緒に暮らしているってことは聞きました。シェアハウスする仲だっていうのに……本当に、すみません」
家族同然のように過ごしてきた名無子のよそよそしい雰囲気に吉良は調子が狂う。落ち込んでいる彼女の為に、なんとか声をかけて励ましてやれないか考えていると、ディアボロが名無子に近づいた。
「名無子が謝ることじゃあない」
「……えっと」
「ディアボロだ」
「ディアボロさん、ありがとうございます。あの、私とディアボロさんって」
「俺と名無子は恋人同士だった」
「こ、恋人ですか」
「嘘をつくなカビ頭。名無子、混乱させて申し訳ない。今のは嘘だから信じてはいけないよ」
慌てて吉良は訂正した。何も覚えてない、無垢な状態の名無子には、言われることをそのまま受け入れることしかできない。それをいいことに、今度はDIOが名無子に近づく。
「名無子、私はDIOという」
「DIOさん」
「ピンク頭もだが、吉良が言ったことも全部デタラメだ。優しい振りをして、きみを騙そうとしている」
「そうなんですか?」
「いいか、よく聞くといい。名無子はここで、喜んで血を捧げていたんだ。吸血鬼の、このDIOに」
「きゅ…………」
あまりの衝撃に言葉を失う名無子。すると、今まで大人しかったカーズが「名無子!!」と、立ち上がった。
「このカーズこそ真実!名無子は私の一部になり、究極生命体となるのだ!このカーズとともに!」
「ええい、DIOもカーズも黙れ!状況をややこしくするな!」
吉良の言葉に耳を傾ける気配すらない。見せびらかすようにカーズは大きな翼を広げた。
「キャアアアアア!!!」
案の定名無子の口からは悲鳴が飛び出る。
「なんなんですかこの人達!私本当にこの人達と一緒に住んでるんですか!?」
「私も最初はこんな奴らと共に暮らすなんて、絶対に無理だと思っていたよ……」
静かに暮らせればそれでいいのに、と吉良が人知れず愚痴を零した。パニック状態となった名無子は泣きそうになりながら言った。
「もう無理です!こんなところにいたら死んじゃう、さようなら……!」
「待ちなさい、名無子!」
ドアの向こうに人の気配を感じた吉良は、慌てて手を伸ばす。だが先に走り出した名無子の方が早かった。吉良の予想は見事的中し、名無子がドアを開けるより先に、鉄製の重たいドアが勢いよく開かれた。
「お前ら!騒ぎすぎだぞ!外にまでガンガンに聞こえてるじゃあねぇか!!ったく、家に吉良と名無子がいてもこのバカ騒ぎかよ……ああ、そういえば名無子は?」
「君に潰されているよ」
「は?」
驚くディエゴ。ゆっくりゆっくりと足元に視線を移すと、車に潰された蛙のような姿で床に倒れている名無子がいた。
「!?わ、悪い。まさかそこにいるとは思わなかった……大丈夫か?」
ディエゴは急いで足を退け名無子に手を差し伸べた。
「うー……痛いけど大丈夫。あ、おかえりディエゴ君」
「名無子、名前がわかるのかい?」
「記憶が戻ったのか!」
名無子の発言にはっとするプッチと吉良。しかし当の本人と、戻ってきたばかりのディエゴには状況が呑み込めない。ハテナを浮かべる二人に、吉良は「実は」と説明を始めた。
事の全てを理解した名無子は、「本当にすみませんでした」と深々と謝った。
「ご迷惑をおかけしました……」
「いいや。どちらかといえば、名無子は迷惑をかけられた方だよ。だから気にすることはない」
「うう、吉良さんの優しいお言葉に涙が出そうです。あと、迷惑かけた犯人は目星ついてます。人間やめてる人か、究極生命体ですよね?」
「愛か」
「愛だな」
悪びれることもなく偉そうに鼻をふんと鳴らすDIOとカーズ。
「オレも心配したぞ!」
「嘘を吐くんじゃあない、ディアボロ。貴様が一番タチ悪いぞ。変なことを吹き込もうとして……ああ、思い返したらまた腹が立ってきた。爆破したい」
こうして、色々あったが無事に名無子の記憶は戻ってきた。
「あのー」
「どうかしたかい?」
「ところで、このピンクの人誰ですか?」
何故かディアボロの記憶だけが消し飛ばされたままで。