夏の宿る言の葉で
女ってやつはよくわからないものだ。承太郎はよく思う。学校に行けばJOJO、JOJOとまとわりつく鬱陶しい女たちはもちろんのこと、自身の幼馴染と旅の仲間もそれに含まれる。幼馴染のことは知っているつもりでも、女心と秋の空、なんて言葉があるように女というやつは気まぐれだ。ある意味猫のようでもある。
だいたいなにかをしようとなったとき、その発案者は大抵まどかだ。ときどき花京院。承太郎と千里は腕を引かれるようにして、それにくっついて行くのが常であった。まどかがいなかったらこのグループは成立しないんじゃあないかと思うほどに、彼女はいつも中心にいる。だが仲良し四人組と言うには奇妙な関係であった。四六時中つるんでいるわけではない。
今日だって、まどかが発案したのが発端だ。彼女は承太郎のことをよく知っている。ゆえに彼が喜ぶだろうことも知っていた。−−その結果が水族館である。
一面ガラス張りの大水槽の中を泳ぐ魚の数は水族館に訪れている客の数より遥かに多い。魚だけではない。ラッコやイルカやペンギンだっている。子供連れや友人同士、恋人たちの多い中、その組み合わせは案外自然に溶け込んでいた。だが、ちらちらと視線を受けるのは学校にいようがいまいが関係ないと、承太郎はうんざりする。だがそんなことはおくびにも出さない。しかしそんな彼の雰囲気を感じ取ったらしい花京院が隣で小さくくつりと笑った。エメラルドグリーンが向けられる。
「なんだ」
「いや、別に」
ほんのわずかなやり取りをして、二種類の瞳は水槽の前に立つ二人組に焦点を当てた。まどかが魚を指差して千里に小声でなにかを話しかけているようだ。そして小さく笑う。相槌くらい打てばいいのに、直立不動のまま水槽の天井を見上げているらしい千里の袖をまどかが引っ張って初めて交わる瞳と瞳。よくもまああんな無愛想を健気に構うもんだ。自身のことを棚に上げて承太郎は思う。やはり女というやつはよくわからない。
「承太郎」
「……なんだ」
「面白い顔をしている」
花京院に指摘されて、初めて自身の表情筋がいつもと違った形になっていることに気が付いた。学帽の鍔を下げる。羞恥というより、なんとなくばつが悪かった。
まどかが笑っている。千里は再び水槽を見上げる。花京院は承太郎から離れて二人の中に混ざった。真っ青で、まるで海底にいるみたい。ああ、とても綺麗だね。千里は海、好き? きっと一番海が好きなのは承太郎さ。今度海に行こうよ。本物の、海。波打ち際じゃあ魚はいないよ。いいの。承太郎は魚よりヒトデだもの。確かに、そうだ。
好き勝手に続けられる会話に呆れを覚え、承太郎もその輪の中に混ざった。軽くどつかれたにもかかわらず、まどかの表情が綻ぶ。
「ね、行こう。海」
「嫌だと言っても連れてく気だろ」
でもきっと自身が嫌だと言うことはないだろう。承太郎は知っている。
「千里も、ね?」
灰色の瞳がまどかに向けられる。それまで彼女の視線は水槽に向けられていた。まどかのように表情でなにかを語ることも言葉で意思表示をすることがなくても、きっと彼女は海に行くだろう。二人の様子を眺めて花京院が微笑む。彼もそう思ったに違いない。承太郎は自身の考えに訂正を加えることにした。――女と花京院はよくわからない。