chapter3-2

 ナマエとなまえがイタリアンギャング・パッショーネの若きボス、ジョルノ・ジョバァーナと相見えたのはグリッジョが死んでからちょうどぴったり一年半後のことだった。
 首に縄をかけて木につるされ、その上体を槍で貫かれたグリッジョの異常な死に方は見せしめなのだとチームの誰もが理解した。そして口には出さずとも犯人が誰なのかを知る。犯人は彼らのボスなのだと。

 パッショーネの若きボスよりほんの二カ月三カ月ほど双子の方が年下らしい。しかし地位に関して言えば年齢などまったく関係がない。双子よりジョルノ・ジョバァーナの方が比較できないほどに高い。
 そんな男に双子は会うどころかその姿すら見たくなかったのに、それでもボスと対面することになったのは、あの屑でどうしようもない人でなしのリーダー、ローザ・カンパネッラのせいだ。

「きみたちが双子の運び屋、ナマエとなまえ……ですね」

 ビロード張りのチェアにゆったりと座った少年が同い年の双子に目を向ける。頷く動作もぴったりの二人はそっくりどころかまったく同じ顔のつくりをしているが、ジョルノは見分けることができない。見た目はクローンかと見まがうほどにそっくりどころか同じである。赤い瞳はまるでアルビノのそれのようだ。
 聞いているのはナマエが白い服を着ており、なまえが黒い服を着ているということだけだ。だが気まぐれで二人が服の色を変えていればその判断基準も瞬時に使用できなくなる。
 だがどちらがどちらでも正直なにも問題はなかった。忠実でなくとも裏切らない部下であればそれでいい。ジョルノからすればその程度の認識である。

 双子は眼球だけを動かして互いに意思疎通を図る。いくら目の前の少年が組織のボスだからといって品定めする権利は双子にある。
 なにせグリッジョが死んだ時点でナマエとなまえがパッショーネにいる義理はなくなっていたからだ。組織を裏切ることはそう簡単なことではないにしろ、あの屑のリーダーに無理矢理やらせれば不可能なことでもない。それにパッショーネのボスはグリッジョの仇でもある。恨みもあるし、なぜ殺したのか聞きたくて仕方なかった。
 だが今それを聞く気など双子にはなかった。一分一秒でも目の前の少年と同じ空気を吸いたくなかったからだ。彼からは吐き気を催すほどのものを感じている。

「初めましてボス。ボスがわたしたちをどう思ってるのか知らないけれど」
「初めましてボス。わたしたちはボスを好きにはなれそうにないよ」

 ジョルノは目を細め、双子を一瞥する。
 声色までまったく同じだ。しかし穏やかでない物言いになにを考えているのかと思案する。ギャングという組織の縦社会は非常に厳しいものだ。双子がギャングに入ったのはジョルノより早いようだと聞いている。ゆえにボスに刃向うことの無謀さもよくよく理解しているはずだ。
 しかし少なくともナマエとなまえはジョルノに対して好意を抱いていない。ぶっきらぼうな物言いも仏頂面も彼を受け入れているとは言い難かった。

「わたしたちはボスに忠誠を誓ってパッショーネに入ったわけじゃあない」
「わたしたちが従うのはボスじゃなくて屑で人でなしのリーダーだけって決まってる」
「……それは、ぼくがきみたちを不穏分子だと判断しても構わないという意味ですか」
「それを判断するのはわたしたちじゃない。屑のリーダーがボスに従えって言うのならボスに従うだけだし」
「屑のリーダーがボスを裏切るというのならボスを裏切るだけだよ」

 話で聞いていたよりも厄介な双子だとジョルノは思う。情報によれば運び屋チーム内に双子の育ての親のような男がいたらしい。双子はそこまで慕っていたわけではなかったようだがそれなりに仲良くやっていたということだ。しかしその男も一年半前に死んでいる。ちょうどジョルノがブチャラティと手を組んでディアボロに反旗を翻した頃だ。
 当時、ディアボロの秘密を追いかけてサルディニア島へ向かう道中、ブチャラティの知り合いという男に随分と助けられた。アッシュグレーの髪の男だ、ジョルノはよく覚えている。男はディアボロに殺された。ジョルノとブチャラティに手を貸したためである。彼が同じパッショーネに属しているギャングだと知ったのはジョルノがボスになってからのことだ。

 だからか、と理解し、ジョルノはナマエとなまえを再度見やる。双子は男を殺した犯人をジョルノだと思っているのだ。親代わりの仲間を殺されたのだから冷静を保てずとも仕方ないことである。
 だがそれでも一端のギャングらしく、不服ながらも決して反旗を翻そうとはしないところはさすがと言ったところか。

「……やれやれだ」

 双子の誤解を解くためにはパッショーネの闇に踏み込まなくてはならないため不可能に近い。できれば双子自身の意思で自身に忠誠を誓ってもらいたいとジョルノは思うのだが、そうも贅沢を言うこともできそうになかった。窓辺の亀がゆっくりと歩く。