chapter3-3

 ナマエとなまえの知らない男が双子のことを知っている。別にその程度のことは珍しくも不思議でもないのだから双子がそれを耳にしたところで驚くことは決してないだろう。
 運び屋チームの双子、もしくは双子の運び屋といえばパッショーネ内でもそこそこ知名度がある。双子というだけで珍しがられたりもするものだからだ。
 だがその男が双子のことを知ったのはパッショーネに入ってからではない。そして男はグリッジョを知らない。つまりナマエとなまえがグリッジョと出会う前、男は双子と出会っていた。正確には一方的に幼い双子を見ただけなのだが。

 男はその日、仲間とともにヴァルハラに足を踏み入れた。仲間を失いながらもその館の主を倒し、無事生還した。
 男――ジャン・ピエール・ポルナレフは覚えている。主人を失った館に残された数人の幼子たちの中に一組の双子がいたことを。そして数人の幼子たちの中でも特に双子の瞳はポルナレフを一度陥れたあの吸血鬼の瞳によく似ていた。忘れることのできない瞳が二対。
 二十年ほど昔に見たきりとはいえ決して忘れることなどできないそれを見間違えるはずがなく、あの冷たい瞳を持った双子がそうたくさんいるはずがない。探せばきっとジョルノと似ている部分を見いだすことも可能なのだろうがあいにく亀の中からひっそりと眺めるのは不便が多い。

「――これが同じ血筋を持つ同士の共鳴とでも言うのだろうか。酷く嫌なものだ」

 十分にも満たない面会であったというのに酷く疲れたらしい。胸の中にわだかまった空気をすべて吐き出してパッショーネの若きボスはビロード張りのチェアに深々ともたれこんだ。
 彼が疲労を顔に出すことなど珍しい。それだけ精神に負担のかかる面会だったのだ。たかが部下、たかが年下の双子だったにも関わらず、だ。これが他の者であったらここまで疲弊することもなかっただろう。
 家族のあたたかみなど記憶にないジョルノが自身に異母兄弟がいると知ったところで特に感想を抱くことはなかった。会ってみようと思ったのはただの気まぐれであったが、母親が違うとはいえ同じ男たちの血を引いている同族をまったくもって無視することはできなかった。
 しかし不思議なことに感想を抱くことなく、無駄に疲弊しただけである。表面上のやり取りに加えて血統が与える感覚はかなりの苦痛であった。

「その癖、親近感はこれっぽっちも感じられない。――ああ、でも後ろ姿は写真の父にそっくりだった」

 ナマエとなまえはジョルノが兄に当たる存在だと知らない。育ての親代わりの兄のような存在を殺した仇だと信じ込んでいる。それについての誤解を解くことは難しいとすでに結論が出ていた。ディアボロが殺したと説明することは簡単でも、パッショーネのボスが殺したと知っている双子にディアボロが前のボスだったのだと言うことはできない。
 ジョルノとは違い、血縁上の両親を同時期に失っている双子にとって唯一無二の家族を殺したジョルノは憎いに違いない。

「とても奇妙な気分だ……あなたが教えてくれなければきっと彼らがぼくの兄弟だと気付くことはなかったでしょう」
「わたしだってあの目を見るまで忘れていたさ。それにまさかパッショーネ内にいたなんて、それこそ予想なんてできないことだ」

 ココ・ジャンボの甲羅から姿を現したポルナレフは自嘲する。ジョルノは同じ血筋同士が持つテレパシーに似たそれにあてられてしまったために調子が狂ってしまったらしい。
 そして奇妙な縁だと彼は思う。かつての敵の子供が一人どころか二人も増えた。殺されずに生き残れたことはきっと喜ばしいことなのだろう。しかし同時に友人の眉間の皺の本数が増えるような気もした。