chapter3-4

 ナマエとなまえはその日もいつものように与えられた仕事をこなしていた。

 内容は非常に簡単なものだ。裏切り者の死体を回収し、痕跡を消して、死体を運ぶ。荷物は男の死体が一体。回収先はシチリアはオルティージャ島、ドゥオーモ・ディ・シラクーザ。古都シラクーザに残る司教座聖堂だ。
 中身の入った緑色の死体袋に貼り付けられた伝票にはリーダーの汚い字でBambino sciocco、馬鹿な坊やと書かれており、届け先は清掃チーム。運び屋は掃除屋じゃあないとヴィオレッタが事務所で愚痴っていたことを思い出す。運び屋チームは梱包サービスを行ってはいるが、クリーニングはサービス外だ。それこそまさに清掃チームの業務である。

 ナマエのスタンド、フギンとムニンは一対のワタリガラスだ。なまえのスタンド、ゲリとフレキも一対のオオカミだ。双方とも番いかもしれなかったがナマエとなまえがそれを確かめたことはない。確かめずともわかることはたくさんある。彼らのリーダーがどうしようもないろくでなしであることと同様に。
 傷だらけで血だらけの死体のにおいを嗅いでゲリが低く唸った。きっと麻薬のにおいを嗅ぎ取ったのだろうとなまえは思った。思い返せばグリッジョは麻薬が大嫌いだった。そんな彼に影響されてか、ナマエとなまえは麻薬というものが大嫌いだったし、しかもその結果なのかなまえのスタンドであるゲリとフレキの嗅覚はほんのわずかな麻薬でも見つけ出すことができる。
 その結果、あの大嫌いなボスが公衆に姿を見せてすぐなまえは麻薬の運搬に駆り出された。ゲリとフレキを使って見つけ出した麻薬を運び出す仕事である。ナマエと二人で盛大に顔をしかめながら仕事をこなしてやったものだ。
 もちろん任務が終わって事務所に戻ってすぐにリーダーを散々蹴りつけたことは言うまでもない。今回の任務も裏切り者の麻薬チームの死体の回収ということで双子の機嫌が少なくともよろしいものでないことは想像に難くない。

 礼拝堂内陣の床に残された血溜まりの清掃も一通り終わったところでナマエの肩に止まっていたフギンが一声鳴いた。早く帰ろうと言っているかのようなその声はまさにナマエの本音を写し取っている。
 双子は力を合わせて死体袋をワゴンの荷台に載せた。ベルトでしっかり固定してからシーツをかぶせる。港まで運べばアランチョの運転するクルーザーが待っているはずである。

「せっかく来たんだし、これを船に乗せたらさ、シラクーザの観光をしていこうよ。パンターリカの岩壁墓地遺跡、一度見てみたかったんだ」
「だったらついでにコッポラ帽を買っていこうか。きっとアランチョが喜ぶよ」

 二つの赤い瞳が交わる。ドゥオーモに入る直前、広場でジェラートが売られていたところをナマエとなまえは見ていた。ジェラートが大好きな彼女に伝えればきっと喜ぶだろう。そしてシラクーザ観光にも付き合ってくれるはずだ。
 どうせクルーザーには死体の腐敗を遅らせるためにドライアイスを山ほど積んでいるだろうから、それが溶け切る時間を勘案しても少しくらい遊ぶ余裕は充分にある。

 運転はナマエの仕事だ。助手席になまえが乗り込む。運搬中に邪魔者が現れないかフギンをクルーザーの停泊している港へ、ムニンをワゴンの上空に飛ばして旋回させる。なまえのゲリとフレキは後部座席であくびをしながら伏せており、主人が電話でアランチョへ連絡する声を聞いている。ワタリガラスのフギンとムニンは索敵や連絡手段に役立つ代わりに攻撃ができない。それとは反対に狼のゲリとフレキは攻撃用のスタンドだ。
 本当はフギンをクルーザーの方へ飛ばすついでにアランチョに連絡させるのが一番手っ取り早いのだが、あいにく彼女はスタンドが見えない。ゆえに一対のワタリガラスも狼も見ることができなかった。なぜならアランチョは運び屋チーム内で唯一の非スタンド使いであったからだ。