chapter3-5

 ナマエとなまえが恨むべき仇はジョルノ・ジョバァーナではないのだろうとアランチョは思っている。なぜならアランチョは今のボスが実は二代目なのではないかと睨んでいたからだ。ジョルノ・ジョバァーナの前にいたはずのボスこそがイタリアンギャング・パッショーネを作った張本人だと推測していた。
 もちろん彼女なりに見知ったことを元に推測した結果だ。しかし答え合わせをしたことはない。

 親なし子など珍しいものではない。ギャングなんて末端に流れ着く人間の中にだってたくさんいる。しかしそれと同じ数だけ親兄弟も家もちゃんとある人間がいる。ナマエとなまえは物心つくかつかないうちに両親を失ったとグリッジョから聞いていた。
 だがその程度のことでアランチョは同情しない。かわいそうだなんていつだっていくらでも言える安い言葉だからだ。金をくれるというのならいつだって好きなだけ言ってやる準備はできている。

 ジェラートを片手にアランチョは先を行く双子を眺める。一見形の整ったお人形が二体並んでいるようだが、アランチョからしてみればナマエとなまえはあまり似ていない。
 ナマエが白い服でなまえが黒い服、だなんて見分け方は相当前から定着している。しかし視覚に頼らなければ見分けがつかないほどそっくりではないのだから、普通に顔を見て声を聞いて見分ければいいものを、とアランチョは思うのである。
 どうやら世の中の人間は明確な違いも見分けることができないらしい。しかしそんなことを気にするほどアランチョは真面目ではない。ナマエとなまえはどこまでいってもナマエとなまえであることには変わりなく、ナマエとなまえの違いを一番よく知っているのは双子自身だ。それとグリッジョ。フレイとフレイヤだなんて呼んだことが一度か二度あった。
 アランチョは知っている。双子がもっとも慕っていた人間はグリッジョだった。

 買ったばかりのコッポラ帽をご機嫌にかぶるアランチョは溶けかけたジェラートをべろりと舐めた。口の中に広がるストロベリー味がじんわりと溶ける。さらに濃厚なストロベリーソースがそこに混ざった。なかなかに甘さと酸っぱさがベネだ。
 ジョルノ・ジョバァーナはパッショーネのボスではなかった。そう考える度に思い出されるのはポンペイ遺跡とサンタ・ルチア駅前広場でのできごとだ。そのどちらの場所にもジョルノ・ジョバァーナはいた。特にサンタ・ルチア駅の広場での出来事など忘れたくても忘れられない。
 そんな経験をしているからアランチョはあの金髪のボスがパッショーネを作ったとは思えないのだ。つい最近まで正体を一切隠していたというのに。そんなボスがわざわざポンペイ遺跡やサンタ・ルチア駅に赴いて死闘を繰り広げる意味がわからない。
 実はドッピオが裏切り者と手を組んでいた、なんてことも考えられたが、あの時の仕事はドッピオからリーダーを経由してアランチョに渡された。チームリーダーのローザ・カンパネッラは屑だが馬鹿ではない。ドッピオが裏切り者であったなら見抜いていたことだろう。見抜いた上で悪のりして気付かないふりをする可能性も充分にありえたが。

 ジェラートを最後の一口まで食べ切って、アランチョは先を歩くナマエとなまえを見やる。双子の後ろ姿は彼らが酷く嫌うジョルノ・ジョバァーナにどことなく似ている。