chapter1-2

 組織傘下のチームは各縄張りの幹部によってまとめられている。しかし一部のチームには取り仕切る幹部がいても、縄張りはない。例えばナマエのいる運び屋チームはそれだ。イタリア各地に広がるパッショーネの組織内を縦横無尽に荷物片手に駆け回る。幹部から幹部へ、ボスから部下へと指定されればどこの誰からだろうが送り届けることが使命だ。

 運ぶ荷物がなんなのか、渡される瞬間までわからないことなどザラにある。大きさや壊れものかどうか程度は連絡されるが、あとは届いてから臨機応変に対応しなくてはならない。
 今だってそうだ。仲間が港に運んでくる荷物をカプリ島に運ぶように通達されたナマエはクルーザーを調達したが、はたしてクルーザーで大丈夫なのか分からない。
 荷物は二つ、大きくはないが丁重に扱うようにと聞かされていたから漁船ではなくクルーザーにしてみただけである。梱包材や毛布も用意してあるため大丈夫だろう。指示された通り掃除人の服も二着用意してあるし、いつでも出発できる準備はできている。

 予定の時間ぴったりにナマエの待つ桟橋の目の前に車が横付けされる。真っ赤なアルファロメオ。同じ運び屋チームのメンバーが運転席から降りてくる。彼はナマエとクルーザーを交互に見たあと後部座席のドアを開いた。

「丁重に運べよ。おまえ運転荒いんだから」

 後部座席から降りてきた初老の男と目深に帽子をかぶって顔を隠した女の二人組にナマエは少しだけ瞠目した。女の方は知らないが、初老の男の方はよく知っている。ナマエは満面の笑みを浮かべた。キャスケット帽を脱ぐ。

「ペリーコロさん! お久しぶりじゃあないですか!」

 そして恭しく頭を下げた。道化師のようなナマエの動作にペリーコロは微笑む。
 運び屋チームにはどうも陽気な者が集まりやすいらしく、彼らをここまで運んできた男もまた、女の尻を追いかけ回してビンタをもらってはからからと笑うような性格である。仕事に対しては勤勉でありながらもまったくマフィアの人間には見えない。だからこそ運び屋という組織内外を縦横無尽に走り回ることができるのかもしれない。

 仲間がナマエに伝票を差し出す。腰ポケットに挿している万年筆でちゃんときっかり時間通りに受け取った証拠にサインを書き、彼女は伝票を仲間に返した。差出人は分からないが受取人がナマエであることは確かである。そして今度は仲間が差出人になって、受取人の手元までナマエが運ぶ。ナマエが最後の受取人にサインをもらった伝票は一番最初の差出人に戻るシステムだ。中途の伝票は滞りなく受け渡しが行われている証拠になる。
 ナマエは新しく書かれた伝票をジャケットのポケットに押し込んで、恭しくペリーコロと女をクルーザーに案内する。

「宛先がカプリ島になっちゃってますけど受取人はペリーコロさんでいいんですかね? 」
「ああ、構わんよ」

 船と港をつなぐロープをほどきながら問いかけるナマエにペリーコロが返事をする。女はずっと黙ったままだ。まさか幹部を運ぶことになるとはナマエも思っていなかった。だが運べと言われれば運ぶのが運び屋である。帰りは優雅にクルージングを楽しもうと酒や食べ物を積んでおいて正解だったかもしれない。
 幹部を荷物と表現するのは如何なものかと思いつつ、丁重に扱えと言われた理由に納得する。粗雑に扱おうとすれば首が飛ぶどころの話ではない。生きたままなますにされたって文句は言えないのだ。

「では、ま、しばしのクルージングをお楽しみくださいませ」

 運転席に登るナマエを女が一瞥する。女の正体より仕事が優先である。この世界は言わぬが仏、しらぬが花だ。