chapter1-5

 日の出もまだまだ先である早朝3時43分サンタ・ルチア駅の駅前広場、そこにある像にOA-DISCを届けることがナマエの今日最後の仕事であった。思えばポンペイ遺跡から始まった配達は、ネアポリス駅ホーム、サンタ・ルチア駅とかなりの移動距離だ。
 仲間の誰かがベネツィアの方へ行けばちょうどよかっただろうに、なぜかナマエに押し付けられたのである。昨夜、ボスの秘書からの指令のメールがすべての始まりだ。いつもは麻薬やら銃器やら金やらを運んでばかりのナマエであったが、今回の仕事は奇妙すぎた。だが黙って運ぶのが運び屋である。

 ライオン像の切れ目の中にOA-DISCを押し込み、配達時刻を伝票に記入する。ここでもまた誰が受け取ったか確認しなければならないために、とっとと少し離れたところにあるベンチに座った。広場からは死角にあって見えないところだ。今日一日の強行軍を思い出しているうちにナマエはうとうととしてしまい、いつの間にか眠り込んでしまう。
 それからどれくらいの時間が経過したのかわからないが、次にナマエが目覚めたとき、駅前広場で戦闘が繰り広げられていた。変なスーツを着た男と、ピストルを持った少年の一騎打ちだ。OA-DISCの争奪でもしているのだろうと彼女はあくびをしながら思った。奇妙なことはすでに体験しているのと眠気も相まってそこまで驚きはしない。

 しかしそれも一時のことですぐに静かになる。さて、誰が受け取ったかのかと見てみれば、ベンチに横になった少年に見覚えのある少年がなにかをしているようだった。目を凝らす。

「ポンペイ遺跡にいたびっくり少年団の子じゃないのさ……って、まじか。ゲイだったのか……」

 ベンチに横になっている少年があられもない声を出していることにうんざりしたナマエはさっさと帰ろうと思い立つ。昇ってきた太陽の光が眩しい。街灯から飛び出た金属に人が突き刺さっていようがおかまいなしだ。駅構内に移動して公衆電話から電話をかける。

「あ、ドッピオさん? 配達終わりましたよ。ええ、ちゃーんと受け取りも確認してます。伝票はいつものように郵送しますね……え?受取人ですか?少年の方でしたよ」

 そして充分に昇った太陽の光を一身に浴びながらネアポリスに戻ったナマエはバールでエスプレッソを頼むのだが、その苦さに悪態をつくのである。それが常識だと言われようとも砂糖を入れる選択肢はない。