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関心


私めがお仕えする主さまが重傷を負われて数日。ようやく目を覚まされた彼女の第一声は『すみません』でした。主さまが謝ることなど、一体どこにあるというのでしょう。彼女は恵まれているとは言えない環境の中でも、出来ることはされていました。その結果がこうなってしまったのは、決して主さまのせいではないはず。目を覚まされてすぐに、主さまは政府を間に入れて呪から解き放たれた刀剣男士達と会われました。そして、離れに戻られると療養に入りました。傷が深く多いための肉体的負担に加えてこれまでの精神的負担が響いているのか、彼女の体は発熱したままでなかなか良くなる気配がしません。碌に動けない主さまの気持ちが安らぐよう、私めにできることは…。そう考えて離れから庭に出ました。ここは主さまの本丸。彼女が就任される前までは穏やかながら止まったままだった景色も、今はそのお力のおかげで四季折々の風景を楽しめます。咲いている花の一輪でも贈れば、少しでもお気持ちが和らぐのではないでしょうか。主さまがよく行かれているお社へ向かおうとした時、男士達が駆け寄って来て私めを呼び止めました。

「こんのすけっ!!」
「おや。乱藤四郎さまに秋田藤四郎さま。五虎退さままで…。どうされましたか?」
「あるじさんは!?」
「横になられておいでですが。」
「まだ治らないのですか?」
「秋田藤四郎さま…主さまは人間です。刀剣男士であるあなた方とは違い、手当てをすれば治るというものではないのです。」
「そ、そんなに…ひどいんですか?」
「ええ、五虎退さま。乱藤四郎さまは知っていると思いますが、体のいたるところが傷だらけです。それに伴っての熱も下がらず、他本丸の薬研藤四郎さまが付きっきりで看病してくださっています。」
「…なんで他の薬研なの?この本丸にも薬研はいるのに。」

悔しそうに拳を握る乱藤四郎さまですが…これまでの状況を見れば、主さまがこの本丸の薬研藤四郎さまに看病される事は難しいことでしょうに。そしてその原因を作られたは男士の方である事は、揺るぎようのない事実です。

「それを言いますか?こちらの薬研藤四郎さまは主さまを蔑ろにしていたではありませんか。」

思わず口から零れた呆れに、五虎退さまがびくりと体を震わせました。

「あ、主様は…そ、その、怒っていらっしゃいますか?」
「…」
「僕、主様にあやまりたいんです…。」
「僕も主君に謝りたいです。お話ししなくてごめんなさいって。」
「ボクも謝りたい。守れなくてごめんね、って。寂しい思いをさせてごめんね、って。」
「…あの方の思いを正確に汲み取ることは、私めには難しいことですが…主さまはお優しい方です。怒ってはいらっしゃらないと思います。」

彼女の性格を慮りながら私めの意見を述べれば、刀剣男士の顔が明るくなりました。何百年と存在する者とは言え、思考や行動はやはり見た目に影響されるのでしょうか?『よかった』と言い合っていた男士達は、興味津々と言った目を私めに向けてきました。

「ねえねえ、こんのすけ。あるじさんってどんな人?」
「見た通りの方でございます。可憐でお優しい、それでいてしっかりとした一本の芯をお持ちで凛とされている。お役目のためならご自身の負担をも苦にされない立派なお方です。…それは知っているはずですが?」
「は…はい。だから…その、重傷を負われてしまいました…。」
「ボク、あるじさんのかわいい顔に傷が残ったらいやだなあ。きれいな体にも出来るだけ残らないといいんだけど…。」
「乱兄さん、あちらの薬研兄さんがきっと治してくれますよ。それにもし傷が残ってしまったとしても、主君の清らかさは傷つきません!」
「そっか…そうだよね、秋田!あるじさんがきれいなのは外見だけじゃないもんね!」

乱藤四郎さまの言葉には同意しかございません。主さまのお美しさは、内面の清廉さ、気高さ、お強さなどによって引き立っているものではないでしょうか。さすが、神と言われるだけあります。主さまを根底から見抜いていらっしゃいました。呪に縛られていたのが口惜しくてなりません。

「そ、それで…こんのすけは、どうしてここにいるんですか?」
「主さまのお気持ちが少しでも和らいでもらえるよう、花の一輪でもと思いまして。お社へよく行かれていましたから、そちらへ行こうかと。」
「主君へお花を差し上げるのですか!僕も手伝います!」
「あっ!ボクもっ!!」
「ぼ、僕も手伝いたいです…。」

かわいいお花が咲いているといいなあ、と乱藤四郎さまが言いました。主君に似合うお花を探します、と秋田藤四郎さまが言いました。し、白い花があるといいです…、と五虎退さまが言いました。我先にとお社へ向かう後ろ姿は正に幼い姿そのもので、先程まで主さまを心配していた言葉は嘘でないと信じたくなります。…いえ、本心であってほしい。

「こんのすけーっ!早くおいでよ!一緒にあるじさんに贈るお花をつもうっ!」

さっそく花を手にした乱藤四郎さまが大きく手を振って私めを呼びます。その近くでは、地面に膝をついて花を探している秋田藤四郎さまと五虎退さまの姿が。…男士のこの想いが主さまに届くよう、私めがしかとお届けいたしましょう。


2018/01/26 掲載