忍びが笑う

うっすらと鴉の声が聞こえてくる、はっと目を開け外を見ると、日は既に沈んでいた。布団の上だ、私は確か…。

「悪夢を見ていた気がする…。」
「ああ、やっと起きたか。」
「、景綱さん。私は、あれから、」

どうなってました、と聞くと景綱さんはバツの悪そうに顔をしかめた。

「食べた瞬間、気を失ってな、酷くうなされてたぜ。お前には悪いことをしたな…。」
「そう、でしたか、あの、噂に乗せられた私も悪いのです。どうか、お気になさらずに、」
「ああ…、店主を呼んでくる。」

景綱さんの顔はしかめられたままだった。


「もう私は平気ですので、これ以上迷惑もかけられませんし、お暇させていただきます。宿も探さなくては、」
「これから、か?」
「?ええ。」
「はて、さて、これから宿を探すとなると、少々難しいですな…。」
「、ここらはそんなに宿泊まりのものが多いので?」
「いや、ねえ、調度この時期は毎年、旅芸人の団体が来るもんでして、」
「宿が埋まっている、と。」
「ええ、ええ、」

それにしても運のないお嬢さんだ、と不憫そうに店主に見られる。苦笑いで答える他ない。宿など無くてもどうとでもなるが、言ってしまった手前、撤回しづらい。

「なら、俺のところに来ないか?てめぇの作ったもんで気絶させた上、宿無しにさせておくなんて、目覚めが悪いどころじゃねぇ。」
「え、それは、」
「おお、おお、それは良い。そうしなさいな、お嬢さん。」
「...。」

妙な必死さを醸し出しながら景綱さんは言った。人に借りを作るのが、我慢出来ないたちなのだろう。

「もともと助けられたのは私の方だというのに、おかしな話ですね。」

そう笑って言うと、景綱さんも確かにな、と少しだけ口の端をあげて笑った。任務のためにこの地へ来たのだということを一瞬、忘れそうになった。
運が良いのか、悪いのか、そういうことになった。


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