大谷妹2

綺麗な笑みに騙される


あれから石田様との関係は少しづつ変わっていった。当然だ、私が彼と距離を置いているのだから。以前はお互い自然と歩み寄っていたが、私はその足を止めた。それだけで随分と彼との間に溝ができた気がした。私は彼に向けるこの一方的な感情の名前がわからなかった、でもきっと良くないものだ。何故なら彼は何も悪いことをしてないのだから。

兄様との関係は何も変わらなかった。ただ、時々兄様がどんな目で私を見ているか気になって、しかし見るのが怖くて目を合わせることが減った。兄様は、前と変わらない優しい兄様だというのに。

そんな状況が暫く続いた折、半兵衛様に部屋に呼ばれた。私はとても嬉しくなった。あの方とお話しするのは久々だ、一体何の用だろう。半兵衛様は最近非常に忙しそうだから、余計なことで迷惑をかけたくなくて、会う機会を減らしていた。

「半兵衛様、失礼します。」
「やあ、きたか小百合君。少しだけ待ってくれるかい。」
「はい。」

半兵衛様は机に向かっており、手紙を書いているらしかった。暫く、その様子を見ていると半兵衛様は筆を置き一つ息を吐いた。終わったようだ。

「僕が呼んだのに、待たせてしまってすまないね。」
「いえ、そんな…。」
「君とこうして二人で話すのも久し振りだ。どうやら気を遣わせたみたいだね。」
「え、あ、知ってらっしゃったのですか?」
「君の性格を考えれば、分かるさ。」

穏やかに言う半兵衛様に、なんだか恥ずかしくなって少し目をそらす。

「でも、三成君と距離を置く理由は僕の場合と違うだろう、彼と何かあったのかい?」

驚いて、はっと半兵衛様を見る。これが本題だろうか。

「ああ、いや、これは大谷君が教えてくれたことでね。君の事を随分と心配していたよ。」
「兄様が、私を…。」
「個人間の問題に口を出す程、野暮ではないさ。ただ君に元気がないと落ち着かない人がいるものでね、」

僕も含めて。と半兵衛様は私に笑いかけた。
兄様も、半兵衛様も、私を気にかけてくださっていた。顔が熱くなるのを感じた。口の端に力をいれたが、感情が抑えられなくなって子供のように、はにかみ、頷いた。

「それで本題だが、三成君と二人で官兵衛君のところへこの書状を届けてくれないかい?」

半兵衛様は笑顔のまま先ほど書き終わった書状を私に差し出した。私は引き攣った笑顔でそれを受け取った。そして、半兵衛様は飴と鞭の使い方が時々雑になるのを思い出すのであった。


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