進道正誤を問わず




 かくして、彼ら三人は他の道に進むこととなる。

 しかし物語はここで一旦過去に戻るとしよう。

 正義とは何だろうか。正しい義と書いて正義。何が正しいのだろうか。何をもって義であると定義するのだろうか。
 誰しもが己が正義であると信じて疑わない。志を同じくした二人の男がその道を別つ時、彼らは何を護りたいと思うのだろうか。
 10年以上前、碧が赤月と桃に会う前の話、そして、かの有名な新撰組の前身である、壬生浪士組誕生の話ー

















  過去編

それぞれの正義


















 二人の男がいた。彼らは幼少を共に過ごし、自分達の育ったこの町を、国を、どのように良くするべきか考えていた。
 一人を土方隼人、一人を芹沢鴨と言った。

「おい芹沢。また一人、俺らに加わりたいってよ」
「それは本当か!? くぅ、二人きりで始めたこの組織もこれで10人。志を同じする仲間が増えることは嬉しいことだ」
「あぁ。これで大名の元へ団体戦闘許可を貰いに行ける」

 幕府の統制の元、剣を振るえる人間、ないし団体には許可が必要であった。
 そしてその最低人数は10。今回参入を希望した井上源三郎でそのボーダーラインを満たしたため、彼らは団体戦闘許可を貰いに行くことが出来るようになった。

「10人集まるのにも時間がかかったな。しかし長年の夢が叶わんとしているところまで来ると、俺も感慨深いものがある」
「それでだ、そろそろ俺たちの名前を決めたいんだが、何かいい案はないか?」
「名前、か」

 土方という男は元来名前というものに執着がなかった。姓があり不自由もしていないし、息子の名前の時にも特にこれと言った理由はなく「歳三」と名付けた。名前に執着がないだけで、ちゃんと息子への愛情はある。三歳になったばかりの息子は歩いたり喋ったりするのが楽しくて仕方がないようで、家に帰れば父さま父さまとヨタヨタとこちらに歩み寄る様は実に愛らしい。

「おい、土方?」
「ああ、すまない。…そうだな、壬生浪士組ってのは、どうだ?」
「安直すぎだ! 他にもっとないのか! 見たまんまだぞ!」
「でも俺らの原点はここ、壬生だ。壬生組ってのもなんだかしゃんとしないし、壬生浪士組がいいとこだとは思わないか」
「お前に聞いた俺が悪かった。…だがまぁ、悪くないかもしれないな」



 壬生浪士組、総勢10名。少ないと言えばそうかもしれないが、世辞抜きにしても優秀な剣士達が集まっていた。彼等の人々の事を想っての活動は民衆にも認められ、大名の元へ行く頃には誰もが知る名となる。
 そして、来たる大名殿。
 壬生浪士組は団体戦闘許可を求め、今まさに大名へ謁見していた。

「して、大名様。我ら壬生浪士組の団体戦闘を認めて頂きたく存じます」
「うーん、そうだのぉ、団体戦闘許可かのぉ…」

 この国の大名は怠惰であった。幾代にも渡り引き継いできた大名の地位に居座るだけの老いぼれ。戦いを知らないただ名ばかりの大名だったのだ。

「そう簡単に出すと江戸にもわしが怒られてしまうからのぉ…。…そうじゃ!」

 これは名案、とばかりに大名は言った。

「最近わしに対する反発勢力が強くてのぉ、わしの部下もわしの元を離れてわしを殺そうとしているらしいのじゃ。どうじゃ、こやつらを倒したら其方達に団体…なんじゃったかもう知らんが、そちらをくれてやろう」
「なんだとてめぇ…!」
「やめろ土方! 失礼しました大名様、無礼をお許しください」

 土方が怒るのにも訳があった。
 大名の反発勢力と言えばこの界隈じゃ有名だ。そしてその勢力はもちろん武士で構成されていて、その中には元大名付きの武士や大名の側近までいるという。先の話の部下とやらがその側近だということは窺える。
 そう、本来これは内戦レベルの話である。
 反発勢力は大名の城に就く侍と戦う準備をしている。たかが10人で相手をするなど死ねと言っているようなものなのだ。

「大名様、そのお話お受け致します」
「芹沢!」
「土方、無茶だと思うか? だが俺は、俺たちの剣の腕を、お前の剣の腕を信じている。お前は誰にも負けない剣士だ」
「芹沢…」
「ここまできて戻るという選択肢はないぞ」
「…わかった。やろう」
「決まったかの」

 大名への反発勢力対壬生浪士組。端から見ては無謀な戦いのようではあるが、彼は、芹沢鴨は確信していた。自分達は必ず、この戦に勝てると。
 それはまた、土方も同じだった。