踏み出せない一歩3


「で、なんで俺?」
「.........いや、」
「まぁいいけど。暇だったし。」
「...暇つぶしぐらいでちょうどいいよね、女なんて。」
「いや思ってない思ってないそんなこと!つーかどうしたの?自虐キャラじゃなくね?」
「そうなんだけど、」
「岩ちゃんに会えなさすぎておかしくなった?」
「...うん。、そうかも。、」
「はは、そのまんま素直に岩ちゃんに伝えたら尻尾振って押し倒してくれるよ!」


やっぱり踏み出せない亜嵐への一歩を消すように目の前には臣くん。たまたま帰りのエレベーターが一緒になって、ご飯を食べに誘ったらすんなりついてきたんだ。

ひとしきりライブも終わって今は食事制限もなく自由に食べている。焼き鳥とハイボールを飲んでいる臣くんは、今日はレモンサワーを飲まなさそう。岩ちゃんとは食べ方も飲み方も大違い。


「押し倒されたのなんて、いつが最後だったかなぁ。」
「...そんな顔、すんだ...えみさんも。」
「え?」


岩ちゃんの事になると、わりと自分でも周りが見えなくなる傾向があるのは分かっていて、岩ちゃんもそんな私を気にしてくれてはいる。不安な時はいつだってゆき乃さんが聞いてくれるし、むしろ不満なんてない、はず。

はずだけど。


「岩ちゃんの穴、俺が埋めてやろうか?」


もしかしたらこの目の前のオトコは、亜嵐よりも危険人物なのかもしれない。

今更だけど。

普段の私なら「何冗談言ってんの!」って流す所なのに、スッと伸びてきた臣くんの手に、その温かな温もりに涙すら零れそうになる。

イエスなんて言っちゃダメ。えみには岩ちゃんって最愛の恋人がいるのよ。よりによって同じメンバーなんてダメ。人気どころ二人とそうなったら罰が当たる。絶対にダメ。

頭の中では必死で堪えているというのに、臣くんを見つめると、切なそうな顔でその唇を開いた。


「そんな顔、美人がもったいねぇ。俺に投げちゃえよ、そーいうの全部。」
「おみ、」
「岩ちゃんが悪いわけじゃないよ。けど俺たちの世界はそーいう生き方しか許されない。えみさん、一緒に墜ちてあげる。岩ちゃんと堕ちるのは今じゃない。、だから今は、俺が一緒に、」


ゆき乃さん以外の前で泣くなんて何年ぶりだろうか?

登坂広臣は私にとっての安定剤なんだと、思い知らされた。





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