泣きたい夜1


ピアス、香水、派手な下着、それから...


「これ、直人さん?」


温泉のチケットを手に取ってえみがそう聞いた。


「うん。」
「スケジュール取れるの?」
「分かんない、」


苦笑いを返す私に、それでもほのぼのした表情を見せるえみ。今日はオトナ女子二人で飲んでいた。

金魚の泳ぐ金魚鉢に餌をやる私は、カチッと煙草に火をつけた。

えみの手元には露天風呂付客室の御招待券。直人からのホワイトデーのお返しだけど、一緒に行くつもりなんだろうか?


「でもなんか愛を感じる。やっぱりゆき乃さんには直人さんしかいないって思っちゃう。」
「...ふは、ほんと?嬉しいなぁ。直ちゃんとずーっと一緒に居られたらどんなに幸せなんだろう。」


そう思ってはいるものの、現実はそんな簡単にはいかない。ここまで人気が出てしまった今、EXILEの殻から抜けた片岡直人として過ごす時間なんてものはほとんどないというのに。

行き着く場所が直人なのは分かっている。だけど今一歩踏み出せないのは、この業界だからだ。それはえみも同じで。


「私達ってさ、いつになったら堂々と外、歩けるんだろうね?」
「...ゆき乃、さん。」


えみが泣きそうな顔をしたからそこでこの話はやめにした。

LINEを開くといつの間にか樹からの逢いたいスタンプが激しく押されていて、思わずぶっと吹き出す。その少し後、北ちゃんからのLINEで【樹が悪酔いしてちょー面倒くせぇ。】って一言。表向き、お世話係は樹みたいだけど、実際は北ちゃんのがしっかりしている事を私は知っている。


「樹くん?」


そんな私にえみが一言。笑って画面を見せるとえみが笑った。


「ゆき乃さんのこと、大好きなんだね、樹くんも。」
「いっちゃん見た目がクールな分、ギャップ萌えする。」
「あー惚気けてる!」
「えみさんだってー。亜嵐にモーションかけられてたじゃん?」


そこまで言うと大人気なく恥ずかしがるえみはめちゃくちゃ可愛い。普段綺麗な分、こーいう時は乙女丸出しで余計に可愛いらしいんだ。こりゃ亜嵐じなゃなくても落ちるよなぁーなんて思う。





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