「疲れてんの?どうした?」
三代目との打ち合わせを終えた私に直人が言った。
「…え?私疲れた顔、してる?」
「んーなんか迷いがある。」
迷い…なんて数えきれない程ある。だけどそれを顔や態度に出さないのがオトナなのに。直人に顔色を読まれるのは正直久しぶりだった。
若干の苦笑いの後、「寝不足がバレちゃった。」そう言うだけ。
結局の所、直人に対して距離を作っているのは私の方で。
当たり前に言えない樹と北ちゃんからの身請け申請に、悩まずにはいられなかった。
私はこの人になんて言葉を貰いたいんだろうか?
「…てっちゃんと飯行くけど、ゆき乃も一緒に行く?」
ポンと肩に手を置かれた。
「てっちゃんか…。今日はやめとく。ゆっくりお風呂につかって早めに寝る。」
「そっか、そうだな、そうしろ。んじゃ俺も今日は自分とこ帰るわ。」
「あ、ごめん、来てくれるつもりだった?」
「んー。ゆき乃が望むなら?」
ヘラって八重歯を見せて笑う直人は可愛い。三代目のリーダーだけど、どのメンバーより無邪気な子供みたいに見えたりもする。
その分しっかりした性格だからいざって時は頼れるし、困った時はいつだって助けてくれる。
私の望みって…―――「10秒だけ…。」ガラス張りの会議室はあちらから丸見えだ。だから大きな直人の背中にコツって頭をもたげる、後ろから。
公衆の面前でこの腕に抱きしめられたらどんなにいいかと考えなくもないけど、今の私にはそんな勇気も覚悟もないのかもしれない。
「やっぱ帰り寄ろうか?」
「へーき。」
「…ごめんな、抱きしめてやれなくて。」
「分かってる。」
「けどさ、ちゃんと考えてるから俺、ゆき乃との未来。ちゃんと、見えてるからさ。だからその時まで待ってて欲しい…何年先になるか検討つかねぇけど…。」
…未来を見据えた言葉に胸の奥がカァーっと熱くなる。やっぱり私の心はこの人のもんだ。
たった10秒で生き返った気分になった。
一番…なんて言葉がなくても、直人が好き。
「おばあちゃんになるまでは待てないよ?」
「ふは、俺もじーちゃんなるまでは待てねぇから安心しろ。」
小さく振り返った直人はまた八重歯を見せてハニカンだ。