ヒマワリ1


季節が春から夏に変わりつつある6月頭。兼ねてより言っていたファンタの夢者を見に行った。その報告がてら、都内で入院している翔太のお見舞いに顔を出す。


「ゆき乃さん。」
「んー?」
「最近なっちゃん、好きな人できたっぽくて、」


ベッドの上、痩せてしまった翔太が目をギョロつかせて小さくそう言った。


「好きな人?」
「…そう。あいつは顔に全部出てるから、俺には分かる。絶対好きな人できたと思うんです。」
「…まぁ、年頃だし、好きな人の1人や2人、いてもおかしくないよね?」
「1人や2人、って、普通1人ですよね?」


うっかり自分の気持ちを出しそうになって内心冷や汗。だけど当たり前にそんな私の失態に気づくことなく翔太が小さく溜息をついた。


「翔太?」
「俺も、いつかそーいう人、できるかな?って。」


儚く放った翔太の言葉に胸がドクッと鳴る。


「うん、できるよ。すぐに、」
「…本当?」
「本当。」


ニッコリ微笑む私に翔太はまだ何か言いたげで。


「俺、やっぱもう無理なのかな…、」


珍しく弱気な翔太に胸がギュッと掴まれたような感覚だった。

メンバーの前ではいつだって笑顔で。苦しい副作用だったり、痛み止めのモルヒネだったりで、翔太に会えない日も多かった。日に日に痩せて弱っていく翔太を、それでもみんなが信じて待っている。その期待を痛いくらい背負って頑張っている翔太が、こんな風に私の前でも弱音を吐くのは入院してから初めてだった。


「翔太?どうしたの?」
「…身体中痛いんです、熱も下がんないし、口内炎も痛くて。なにも食べたくなくて。…何より1人で歩くこともできなくなって、ダンスなんて以ての外…明日になったら声も出せないかも、って。」


ポロリと涙を零す翔太の手をそっと握った。


「戻りたい、病気になってなかった頃の自分に。ごめんなさい、こんな事、ゆき乃さんに背負わせて…、」
「いいよ、全部聞く。翔太の苦しい気持ち、ちゃんと全部聞きたい。一緒にいるから、」


…だけどその後発作が起きて、

次にまた大きな発作が起きたらもう…―――主治医の先生が翔太のお母さんに小さく呟いたんだ。

22歳の翔太を、どうかどうかお守りください。





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