「なんすか、」
クイクイって手首を曲げて俺を呼ぶから仕方なくって顔で内心テンション上がりながらそこに入った。
気を使ってか煙草を灰皿で潰したゆき乃さんは俺をジーッと見つめて一言呟いたんだ。
「指輪、買ってあげたい子、いるんだって?」
余裕の表情で、まざまざと。
「...え、あの、」
「ELLYに聞いたよ。」
リキヤさん、口軽すぎ!硬いって信じてたのに。
「酔っ払いにペラっちゃダメだよ、いっちゃん。本当に守りたいことは、なるべく話さないようにしなきゃね、この業界。」
...肝に銘じるけど、なんか腹立つ。俺はゆき乃さんの手を取るとそれをギュッと握った。
「この指輪、誰に貰ったんですか?そーいうのもゆき乃さんは内緒にしてるんですよね?」
マイコさんの話だとこれは自分へのご褒美。だから俺のこのカマかけは必要ないのかもしれねぇ。だけど万が一違ってたらどうする?
ほんのり目を伏せたゆき乃さんに俺の心臓がギュッとされたようだ。
なんだよ、その反応。
「離していっちゃん。」
「え、」
何故か物凄い睨まれてる。まるでそれに触れるなとでも言うように。え、ご褒美じゃないの?
「変な目で見ないでよぉ、いっちゃん。ばーか、ばーか。」
...いつものゆき乃さんの口調に戻ったけど、ほんの一瞬見せたのは、確実に拒否だった。それ以上何も言えないとか、どんだけ弱いの俺。
でも前に一歩進みたい、そう思う気持ちを大事にしたいんだ。
「誰と付き合ってるんですか?ゆき乃さん。この社内にいますよね、その指輪くれた人。」
「...いるわよ。でも言わない。邪魔、しないでよ、いっちゃん。」
「...教えてください!誰と、」
「なんで!?なんでそんな事聞くの?」
「決まってるじゃないですか!!ゆき乃さんのことす、」
ガチャっ、ドアが開いて顔を出したのは、ちょっと吃驚した顔の直人さん。
「あ、えーっと取り込み中?ちょっとゆき乃ちゃんに頼みがあったんだけど、」
スっと、俺が掴んだ腕を振り払ったゆき乃さんは、直人さんの方に歩いて行く。
「直人さん何ですか、頼みって。」
「充電器忘れちゃって、」
「もう、また?」
「んー、悪い、」
チャリって家の鍵なのかを渡すとゆき乃さんは振り返ることなく直人さんと一緒に完全にこのスペースから出て行った。
...なに、あの二人、まさか、ね?