夢見心地な一夜B



「え?ほんと、ですか?」

信じられないって煉獄さんを見上げると、真っ赤な顔ででも優しく瞳を向けてくれていて。
その視線の先に居たいといつも願っていた。
この人に心から愛されたらどれだけ幸せだろうと。
叶わないと分かっているからこそ、その想いは強くなってしまったんじゃないかとさえ。
煉獄さんはこうやって私にも優しく対等に接してくれるけれど、本来はこんな風にただの社員である私なんかと対等に渡り歩いているレベルじゃないって。

「君は、自分を下に見すぎだと思うぞ。俺なんかに好かれていないと思っていたんじゃないか?」

スッと煉獄さんの人差し指が私の額を軽く突く。
思っていたよ、そりゃ。
素直にコクリと頷くと今度は煉獄さんがガハハハハって大口開けて笑い出す。

「そうだろうと思っていたよ。だが信じて欲しい。俺は君を女性として愛している。君が俺の直の部下になった時からずっと、この心を燃やす恋の炎は、君といる時にしか動くことはなかった。」
「…れ、煉獄さん…。」
「お互い素直になったとこで、もういいかな?」
「え?」

急に襲ってくるのは当たり前に羞恥心で。
まさか本当に自分の願いが叶うだなんて思いもしなかった。
だから急にめちゃくちゃ恥ずかしくなって…
身体中の血液が顔に集中するのが分かった。
そっと私の頬を指で触れる煉獄さんに心臓が口から出そうなくらい爆音を鳴らしている。

「部屋は一つだけなら、遠慮はしないぞ?」

気づくと、入口の所にいたはずの煉獄さんはもう、ベッドの前で私に触れている。
ゆっくりと肩を押すことで私がカクンとベッドの上に腰を下ろした。
その隣に躊躇うことなく座った煉獄さんは、そっと私の頬に大きくて温かな手で包み込むように触れた。

「目を閉じるのではないのか?口付けの時は。」

ジッと煉獄さんを見つめていた私にそう言うけれど、「煉獄さんだって、目開いてます。」…吸い込まれそうで目が離せなくて。
一秒たりとも煉獄さんの表情を見逃したくないなんてこの期に及んで思っていた。

「ああ、そうか。ならば目を閉じるから君も覚悟してくれ。」
「…はい、」

覚悟…と言われ、また心拍数があがった。
夢にまでみた、煉獄さんとの夜。
今それが現実となって舞い降りた。
胸を鳴らす早鐘をギュッと手で押さえて目を閉じると、フライング気味で煉獄さんの唇が触れた。

「ンッ、」

思わず盛れた声に煉獄さんの肩に触れる手に力が込められた。
触れ合うだけのキスに物足りなさを感じてしまう。
十分愛を感じる。でも、

「…杏寿郎さんって呼んでもいい?」
「いいぞ。好きに呼んでくれ…ゆき乃。先に進んでもいいか?」
「それダメ。一々聞くのダメです。杏寿郎さんに触れられて嫌なとこなんてないです私。」
「…君は、もう。どれだけ俺を夢中にさせるんだ、全く。」

ふわりと後頭部に手をかけてゆっくりとベッドの上に押し倒された。
杏寿郎さんの長い髪と天井が私を見ていて…頬に手を添えて小さく告げた。

「好き。」
「よもや、よもや、煽られて受けて立たなきゃ男ではない。ゆき乃は可愛いな。どんな顔を見せてくれるのか楽しみだ。」

前言撤回。
女を知らないんじゃないかなんて勝手に思っていた自分を呪いたい。
だって杏寿郎さんの触れる手はなんてゆうか魔法がかっている。

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