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「ここ、どこ?」

ゆき乃が目を開けるとそこはさっきとはまた全然違う場所が広がっていた。そして残念なことにここにいるのはゆき乃一人の様で。当たりを見渡してもハルの姿も美月の姿もない。
途端に心細くなって涙がじわりと浮かぶ。
あたかもここに人が住んでいるようには見えるものの、それ主がいるのかすらも分からない。
歴史の授業は苦手だった。ドラマのJINや、NHKの大河ドラマでしか頭に入れていないし、ましては大正の日本の勉強なんてほとんど頭に残っていない。
ハルや美月がいたら心細さも多少なりとも減少されるんだろうけれど、今はゆき乃一人だという事実が突きつけられて喉の奥から涙がこみあげてくる。
こんな得体の知れない所で一人になってしまうならば、あんな藤の花なんて見に来なきゃよかったと。
大人しく勇征達と一緒にいればよかったと。

「ハルぅ、美月ぃ、どこよぉ…お願い、出てきてよぉ。」

震える声で何度かそう声を上げたものの返事は返ってこない。だから仕方なく縁側に続いていた部屋に上がってその部屋の一番奥にある襖に寄りかかって膝を抱えた。

ーーーーどれくらい時間がたったのだろう?
いつの間にか明るかった空は暗くなっていた。そしていつの間にか寝てしまっていたであろうゆき乃が目を覚ましたと同時、この部屋のドアがカラリと開いた。

「てめぇ、何してやがる!!胡蝶の屋敷に行かねぇでなんでここにいんだァ!?」

見上げたそいつは、先程ハルに向かって刀を突きつけた傷だらけの荒くれ者の銀髪。
今もその刀は腰に刺してある。このままだといつ自分も同じようにされるか分かったもんじゃない。

「知らないわよ!わたしだって好きでここに居るんじゃない!スマホで写メ撮った時に強い光に包まれてここにきたの!だから同じようにすれば元の世界に帰れるって思ったんだもん!わたし達被害者だよ!そんな怖い顔しないでよ!バカァ!!!勇征のいる世界に帰して、勇征に逢いたいよ。わたしまだ勇征に好きって言ってない。勇征…逢いたいよぉ。」


気づくとゆき乃の目からは大きな涙がボロボロと零れ落ちていて、目の前のこの人に何を言おうと帰れるものでは無いと分かっているけれど、言わずにはいられなかった。


「…顔は生まれつきだ。悪かったなァ、だが、んな事言われても俺にできる事は何もねェ。とにかく今日は遅いから明日になったら胡蝶のとこに行けェ。ここにいられちゃ困る。」


思いの外、銀髪が怒らずにちゃんと話を聞いてくれた事がゆき乃には想定外で。見上げた先、確かに強面の表情。けれど本当はそれほどでは無いのかもしれない、なんて思えた。

グズッと鼻を啜って涙を拭くとゆき乃は銀髪を真っ直ぐに見つめた。


「一ノ瀬ゆき乃です。一晩お世話になります!」


膝を着いたそこに深く頭を下げた。


「…不死川実弥だ。まぁ覚えなくていい。どーせすぐに忘れる。」
「忘れない!一晩共にした相手だもん!」


ゆき乃がそう言うと実弥は目をカァッと広げてチッと舌打ちをした。


「くだらねぇ事言ってんな、」
「泣いたらお腹すいちゃった。なんか食べたいです、実弥さん!」
「アァ?てめぇ柱に飯作らせる気かァ?」
「柱?なに?柱って?電信柱?え?」


ほんの一瞬怯んだのはそう、この実弥が優しい男だからで。勇征に逢いたい…と、好きな男を想って泣くゆき乃の涙がどうにも綺麗に見えて仕方なかったんだ。


「調子にのんなよ、テメェ!」


だからそうやって怒鳴られても、ゆき乃は実弥に対して怖いという感情が消え失せたなんて。





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