「一ノ瀬、日高の文章ちょっと見てやってくれないか?」
上司に言われてドクンと心臓が高鳴った。
ここで断る理由もないし、私は日高くんの下書きを見せて貰った。
本の出版部門にたずさわっている私は印刷前の校正までが仕事で、一字一句のミスも許されない。
新しいコーナーを作ることになり、若手の新人達が来週のプレゼンで勝負することになっている。
それに立候補した日高くんは、死ぬ程気合いが入っているのが目に見えて分かる。
まぁでも若手はそれぐらいの熱量がないとこの世界では続かない。
「日高くん。文章は悪くないと思うの。でももっと強烈なインパクトがないとプレゼンには勝てないわよ。あとここ、誤字ね、」
スラスラとペンで間違いを正す私を見て微笑む日高くん。
「なんかいいっすね、こーいうの。」
「え?」
「初めての共同作業って感じで。」
大きな目で真っ直ぐに見つめるから途端にドキドキと心臓が鳴る。
身体中の血液が顔に集中するのが分かる。
顔が紅くなりそうでスッと目を逸らした。
「仕事中!」
「嬉しいんです、ゆき乃さんと一緒に仕事できるのが。」
「なによそれ。」
「プレゼン、もし俺が勝ったら、デートしてくれませんか?」
思わず振り返った私を、やっぱり真っ直ぐに見ている日高くん。
「そんなの、」
「ダメですか?私情を持ち込む事でよくなる仕事の仕方も、ありませんか?」
そんなの認められない。
昔から仕事に私情を持ち込むなんてご法度だ。
でも、
「ちょっと澤くんと打ち合わせ。」
「ゆき乃さん!」
「絶対勝ちなさいよ。」
立ち上がって後ろ向きで言った。
後ろから「もちろんですっ!」元気な声が聞こえて頬が緩んだなんて。