「ここあさん、彼氏いますかっ!?」
大学一年生の我妻善逸くんは、黄色い頭の目が大きくて可愛らしい男の子だ。
うちのCafeに学生バイトとして遅番で入る事が多く、フルでシフトに入っている私と時間が被る事がよくあった。
とても人懐っこくて仕事を覚える事にも熱心でいつも笑顔でいる彼は言っちゃえば私の癒しで、どんなに辛い事があっても彼の笑顔に会えばそれはスッと消えていくような不思議な存在。
それを少し前に雪乃に話したら、「癒しねぇ…」なんて意味深な顔をされたけれど、まさかその我妻くんと私がそんな風になってると思われていたなんて思いもしない。
「いやいやそれはない。確かに我妻くんは可愛くて癒しとは言ったけど、大学生だよ!ダメでしょ。何歳とし離れてると思ってんの?」
手にしていた枝豆を口に運ぶと雪乃は頬杖をついて「なんだ、つまんない!」まるで他人事。
楽しんで貰おうと思ってる訳じゃないんだけどー…なんて思うも、そう言われると無駄に意識しちゃいそうになるじゃん!なんて脳内で小さく悪態をつく。
でもーー「彼氏がいるかは聞かれたけど」仲良くなってわりとすぐ聞かれたのを思い出した。大学生相手に本気になるなんて考えちゃダメだと自分の中では何も聞かなかった事にしようって思ったんだっけ?だからこれは雪乃にも話してなかったけど、なんでか口を継いで出てしまったんだ。
途端に雪乃が丸テーブルの上に投げ出していた手でガシッとテーブルの端を掴むと、若干の前のめりで笑顔を見せた。
「脈アリじゃんそれ!」
「こっちが好きみたいに言わないでよ、」
「だって大学生だよ!27歳目前の私達が大学生に相手にされるなんて願ってもみない事じゃん!恋愛対象に見てくれる大学生なんて早々いないと思うの!こんなチャンス逃がしてたまるか!ジャンみたいなオッサンよりも我妻くんと飲みに行きなよ!」
俄然やる気になっている雪乃は、大学の頃もよく他人の恋愛のキューピッド役に徹していたっけ。人の心に入り込むのがうまいのか、雪乃に頼むと大抵がカップル成立していた。当の本人はケロっとしているからいいけど、自分の恋愛を謳歌して欲しかったなんて、今更だけど。
ウェルカムシャンパンの最後の一口を飲み干した私は、メニュー表を見て店員を呼んだ。
「すいません、カシスオレンジ一つ」
「承知しました、ただいまお持ち致します」
話逸らしたって顔で雪乃に思いっきり睨まれる。
そりゃ言ってることは分かるけど。確かにこの歳で大学生に好かれるなんてめっけもんだって思うよ。でもだからって、ホイホイOKなんてできない。
「よく考えてみて!私と我妻くんが一緒に歩いていたら絶対姉弟だって思われると思うの。誰もカップルになんて思わないよ…」
「そんなのどーでも良くない?周りがどうとかわたしは関係ないけどなぁ。好きなら一緒にいたい、ただそれだけじゃない?好きなら、ね?でもここあの心にはその常連さんがいるみたいだから、仕方ない、そっちを応援してやろう!じゃあさ、アレやろーよ、」
雪乃が指さしている所にはダーツがある。
雪乃はよくあのダーツで人生の選択なんて大きなものじゃないけれど、小さな選択をする事があった。
ちょっと嫌な予感しかないんだけど。
チラリと視線を向けると雪乃は空を仰いで考えているようで。絶対罰ゲーム的な事が飛び出してくるんだろうって思えた。
まぁでもこれぐらいしないと、いつまで経っても今のまま何も変わらぬ日常が続くだけなんだとも思える。結局のところ、自分の意思で動かないと始まるもんも始まらない。
頭では私だってよくよく分かっているものの、その一歩を踏み出すのにどれだけの勇気がいるかってことも、分かって欲しい。
「私が真ん中に当てたら明日ここあは常連さんに挨拶以外の会話を取り付ける、いいね?」
やっぱり。だよねぇ、そうだよねぇ。仕方ない、やるか!
無駄に腕まくりをして、私は「御意」そう言うと雪乃が楽しそうに笑った。
雪乃と2人、ダーツ置き場に移動すると、たまたまジャンと目が合ってこちらに近付いてきた。
「なに?ダーツすんの?」
「うんまぁ」
苦笑い気味で返すと雪乃が不意にジャンの腕を掴んだ。
「ちょーどいいや、ジャンが判定して!今からここあの恋の一歩をかけた対決するから!」
「はぁあ!?」
ちょっと眉間に皺を寄せたジャンの言葉も聞こえてないって顔で雪乃がグイグイジャンを引っ張って行くのが笑える。
2人の後ろをついて歩く私の目に、入口のドアが開いて入って来た2人組に私の足が止まったーー
ーー嘘でしょ!!!!!