キューピッドの恋

【side 雪乃】

「ジャンお願い!!!」

頭を下げて懇願する。この前久々に大学時代の同級生ジャンと再会した。そのジャンの職場の上司だっていうリヴァイさんに一目惚れした私は、こうして時間ひまさえあればジャンを呼び出して彼との仲を取り持って欲しいと頭を下げていた。

「ここあんとこのオーナーと仲良くしてたじゃねぇかお前。なんでうちの班長なんだ?」

「ビビビッてきたの!あの人に睨まれた時に!」

「ドMだな、全く」

あの日、遅れてあのBARにやって来たジャンの上司のリヴァイさん。私達もだいぶ酔っていたから結構フラフラで。でもなんとかここあと七海さんの仲を深めてあげたい!って、昔の癖でキューピッド役に徹していた。
ジャンの同僚たちもいい感じに酔っていてビリヤード台で遊んでいた時に一つ隣のヤンキー達と口論になったんだ。その瞬間、リヴァイさんが仲裁に入ってその場を宥めてくれた。目が合った私に対して「女はフラフラになるまで飲むんじゃねぇ、みっともねぇ!」なんて罵声を浴びせられたけれど、ジャンに言わせたら心配してくれたんだって事で。分かりずらいとは思ったものの、不器用なその感じがたまらなくツボに入って、おまけに五条さんに負けず劣らずの美顔だった為、一瞬で恋に落ちた。
だからこうしてお願いしているというのに、全くと言っていいほどジャンは首を縦には振ってくれない。

「どうしてダメなの?」

「そーいう回りくどい事を好まない、あの人は。俺たちだっていい上司だと思うまでに少し時間がかかった。」

「見る目がないんだよみんな。あんな素敵な人、これを逃したらもう一生出逢えな、…」

カランとドアが開いて入って来たそれに目を奪われた。

「リヴァイさん!!!」

あの日から何度逢いたいと願ったか。ネクタイを緩めて歩いてくるリヴァイさんに私はテーブルを叩いて立ち上がる。さすがに声が届いた彼は知らない顔の私をほんの一瞬見たけれどすぐに視線を逸らす。その変わり、隣にいるジャンを見つけて小さく溜息をついたんだ。

「おい、嘘だろ、」

だけど吃驚したのはジャンの方だったらしく、「リヴァイ班長」軽く手を上げると、威圧的な視線でこちらを見ながら私たちのテーブルに歩み寄った。

「たまたま早く用が済んだから来てやったが、やはりお前だったか…」

私を上から下まで見て小さく舌打ちをされた。だけど今目の前にリヴァイさんがいるって事が全てで。

「あのっ!私、ジャンの大学時代の同級生の雪乃です。リヴァイさん、私と付き合ってください!!」

自分でも馬鹿だなって思う。こんなのストーカー以外のなんでもないって。たかが一度飲みの場所が重なっただけで、喋ったわけでも一緒に飲んだわけでもない。勝手に好意を寄せられてさぞ気持ち悪いだろうって。

でも、今日を逃したらもうないって分かる。
どの道当たって砕けるなら最初から直球投げてもいいんじゃないかって、

「は?断る」

当然の言葉が返ってきたけど、それでも私って人間を認識してくれた事が嬉しくて笑顔が零れた。

「班長!こいつその、悪い奴じゃないんです!大学の時、キューピッドって言われてて、他人の恋愛を必死で成就させてきた人思いの優しい奴なんです。だから自分の幸せ見つけたって雪乃を応援してやりたくて…。今すぐどうこうとは言いません!でも、繋がってやってくれませんか?」

「何度も言わせるな、断る」

ピシャリと言うその曲がりのない所も、残念ながら好きだと思えた。
自分に置き換えたらそりゃ何度言われても断るんだろうって。だからむしろリヴァイさんは至って普通なんだと思うの。

「じゃあ今夜だけ、一緒に飲んでくれませんか?」

「俺からも、お願いします!」

隣で一緒に頭を下げてくれるジャンの愛を感じる。人思いの優しい奴は、私ではなくジャンの方だって思う。なんだかんだで、ここあの事も私の事も、放っておけないのがジャンのいい所だ。

「なら一杯だけだ、早くしろ」

そうやって私にチャンスをくれるリヴァイさんを、やっぱり好きだと思わずにはいられない。
こんなに偉そうで不機嫌で嫌々なのに、それでもつまらなそうな顔はしないでいてくれるリヴァイさんが、どうしても好きだと思わずにはいられない。

「好きです、リヴァイさんが」

「初対面の奴に言う馬鹿はお前ぐらいだろう」

そう言われても、好きなもんは好きだ。馬鹿だと言われようが、迷惑がられようが、胸に生まれた恋心はそう簡単には消せない。

「恋人はいますか?好きな人は、いますか?」

「てめぇ人の話聞いてねぇのか、クソが!」

「次のお休みはいつですか?デートしてくれませんか?LINE教えてくれませんか?」

呆れるぐらいに自分の想いをリヴァイさんに伝えた。気持ち悪がられても、迷惑がられても、伝えなきゃ何も始まらない。短い時間の中で私は何度もリヴァイさんに好きだと伝えた。

勿論ながらきっちり一杯飲みきったリヴァイさんは、すぐに帰って行った。
なんとも複雑そうな顔で私を見下ろすジャンの手をギュッと握る。

「ありがとうジャン!リヴァイさんに伝えててくれて。さっきも、一緒に引き止めてくれて本当にありがとう。めちゃくちゃ嬉しかったよ!」

「お前みたいなキューピッドにはなれねぇが、できる事ならこれからもしてやるから、頑張れよ!つーか俺は班長がここに来たこと自体が奇跡だと思うぜ!」

恋人がいるのかも、好きな人がいるのかも答えてくれなかったし、休みの予定も聞けずデートの約束も取付けられなかった。LINEのIDも聞いたけど当たり前に教えては貰えず、ダメ元で自分のIDを暴露した結果ーーーー「ジャン!!!」

「どうした?」

飲み屋を出て駅に向かうさなか、スマホに届いた一つのメッセージに涙目でそれをジャンに見せた。

【家に着いたら報告しろ。事件にでも巻き込まれたら迷惑だからな】

紅茶の画像のリヴァイさんのLINEのアイコンに私は思いっきりジャンプを繰り返した。嬉しくて嬉しくて、本当に嬉しくて。
ジャンの背中を何度もバシバシ叩いて思いっきり笑顔になった。

恋とは、これ程までに心躍るものなのか…と。



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