5年ぶり


梅雨明けを間近に控えた週末、5年ぶりに地元の地に降り立った。

南知多町からフェリーで10分。人口約1700人の離島、篠島が私の生まれ育った島だった。

特段誰にも言わずに来たのはフェリーを降りてからの道を歩きたかったから。数々の思い出と一緒に一歩一歩噛み締めながら歩く。

青春の一ページなんて青臭いことは言わないけど、思えば高校生の頃が一番楽しかったのかもしれない。

あの頃は何も考えずに自分の気持ちを大事にしていた…―――「なんで?」足を止めた先にいるのはラフに真っ白なTシャツを着こなしている樹。

幼馴染の藤原樹。


「翔太くんに聞いて。もしかしたら汐莉が帰省するかもって。だからちょっと散歩しながら歩いてたら本当にいたから。―――えーっと、5年ぶり?久しぶり汐莉、よく戻ってきたな。」


眩しい樹の笑顔に忘れかけていた何かが胸の奥でドクンと動いたような気がしたなんて。


「樹…。」

「東京になんて、染まるなよな。」


ポスッて樹の手が髪に触れる。懐かしい温もりにほんの少し心の奥底がキュっとしまる思いだ。

あの頃、樹達もみんな東京に出て行くもんかと思っていたけど、誰一人出て行かずにここに残っているなんて思いもしなかった。


「染まってなんて。…似合ってないの私。東京に。」

「なら戻ってこいよ。誰も歓迎しないやつなんていねぇよ、ここには。汐莉の居場所なんて腐るほどある。」


樹に言われると決心が揺らぐのは相変わらずなのかもしれない。この前の翔太との電話の時よりも胸に刺さるその言葉。

帰る場所がある私はまだ幸せなんだと。


「そんな簡単に仕事辞められないよ、」

「あーまぁーそーか。とにかく実家に顔だしてやれ。お袋さんも親父さんも待ちに待ってるから。」

「うん。」


隣を歩く樹からは潮の香りに混ざって、なんとも言えない甘い香りがした。