K



それから、俺と汐莉さんはよく喋るようになった。

でも大人になってからの恋は学生の頃みたいに簡単にはいかないと身をもって体験する。


「は?」

「ただの噂っすよ?だからあんま気にしない方がいいし…」


そう言うなら最初から何も言わないでくれよ直人の奴。

“気にすんな”とか“噂だし”とか、耳に入ってしまったら気にならないわけねぇだろが。

みんな分かってて言ってるなら本当確信犯だぜ…。


結局俺に気にして欲しいのかと思ってしまう。

本人以外は所詮他人事で、俺はもう苛々が最高潮に達していた。


そんな俺に追い討ちをかけるかのよう、カフェ;はぴねすにコーヒーを飲みに行った俺が目にしたのは、仲良くお茶をしている汐莉さんと、その同部署の大輔さんだった。

それは言うまでもなく美男美女のカップルで…

あぁなんだ、お似合いの男がいるんじゃないか。

そう思った。

なんなんだろうこの敗北感…

胸の奥がチクって痛いような、何ともいえない感覚。


「お待たせしました」


哲也の彼女の香澄ちゃんがブラックコーヒーを持ってきてくれた。


「珍しいですね、篤志さんが一人で来るなんて」


ニッコリと笑ってそう言う香澄ちゃん。


「あー…今日ゆき乃休みでね。誰もコーヒー入れてくれないの」


苦笑いで香澄ちゃんを見ると心配そうな顔を浮かべた。


「ゆき乃さん具合悪いんですか?」

「ん〜…知らない。良平に聞けば分かると思うけど大丈夫じゃない?風邪なんて引くタイプじゃないっしょ、ゆき乃は」

「そんなこと…。後で哲也にも聞いてみます」

「うん」


香澄ちゃんとそうやって話してるんだけどなんだか遠くで話してるようなそんな感じで、俺の目線はずっと汐莉さんから離れてくれない。


直人の言う通り、汐莉さんはあの大輔さんといい関係だって噂になっていた。

それは俺が見てもリアルにそう見えて…

満更でもなさそうに笑う汐莉さんがほんの少し憎くも感じる。


あぁ、あいつの前ではあんな顔で笑うんだ…

とか。


あぁ、あいつの前ではあんな声出すんだ…

とか。


そんな汚い気持ちが俺の中を駆け巡っていて…

恋に気づいたと思った俺は、告白もしないで失恋という悲しい結果を迎えたんだ。