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「悪かったな…」

「はいっ?」


何事?って目で俺を見る直人に、休憩から戻って一番にそう伝えた。

同じ想いをして、ようやく直人の気持ちに少しだけ気づくだなんて…

マジ、最低だな俺って。




「ねぇ、汐莉と何かあった?」


翌日、やっと俺の元にコーヒーを持ってきたゆき乃は、少しだけ心配そうな表情で俺を見ている。


「別に…“何か”もなんも、最初から何もねぇし。変な波風立てんなよ」


威嚇するみたいな低い声にゆき乃はビクっと俺から一歩後ずさった。


「何だそれ」


後ろに下がりながらも俺を睨むこいつは、一体俺たちに何をしてくれるっていうんだろうか。


「あんた気持ちがないのに、気があるような態度とったの自覚無し?」

「……?」

「仕事かもしんないけど、“汐莉さんに一番来て欲しかった”って言ったよね?」

「……っ」

「酒入ってたかもしんないけど、駅のホームで汐莉の事抱きしめたよね?」

「……」

「そーいう事誰にでもできんの、篤志ッ!女はそんなことされて期待しないとでも思ったのっ?」

「…わ、悪かったよ…」


困った。

非常に困った。

ズバリな事を言われた俺は、専ら返す言葉も見つからねぇ…なんて思っていたら、この目の前にいるゆき乃がグズっと鼻を啜って…

気づいた時にはもう遅い、泣き出した。


ゆき乃が泣くのはいつだって良平の事で、完全に俺が泣かしたみたいなこの状況に正直動揺してしまう。

普段泣かないこいつが俺のせいで泣いたとなると…

脳裏で怒り狂う良平が浮かんだ気がした。

次の瞬間…


「あ〜〜わわわっ…お、俺じゃねぇ…っていうか、いや…俺じゃない事ないんだけど…その、ごめん…」


目の前で泣いてるゆき乃を見て、良平が俺たちの前で足を止めた。

完全に怒られる気でいた俺は、良平がゆき乃を引き寄せてギュっと抱きしめるのをただ見ているだけで。

チラっと俺に視線を移す良平は、小さくため息をついて苦笑いを飛ばした。


「篤志悪りぃ、こいつちょっと不安定っていうか、まぁ…ちょっとあってな。気持ちに敏感になってんだよ」


逆に良平に謝られた。

それは後々知ることになるだろう直人との間での揉め事で…。


何も悩みなんてないって思って疑わなかったゆき乃にもそれなりに悩みはあるらしい。