「だって汐莉…気にしてたから…篤志のバカ―――!」
不安定ゆき乃はまだ俺に敵意を向けていて、良平に抱えられながらも俺のデスクの側を離れて行った。
でもあいつの言うことに嘘はない。
少なからず、汐莉さんも俺を気にしてくれていたのかも、そう思っても罰は当たらない気がした。
だから、俺はフウ〜っと大きく深呼吸をして、新館に繋がるエレベーターホールに歩いて行った。
「汐莉さん!」
デスクに向かう彼女を呼ぶと、あの日と何も変わらない笑顔を俺に向けた。
それは大輔さんと一緒にいた時の彼女の笑顔とは少し違う気もして。
自分の気持ち一つで見方が全然違うもんだなと思ったんだ。
「あのさ、ちょっといい?」
「あ、はい」
「あの人と付き合ってんの?」
少し離れた場所にいる大輔さんを指差してそう聞くと、案の定首を横に振る汐莉さん。
「そっか、よかった」
「…あの…」
「ん?」
「社交辞令でしょうか…」
「えっ?」
「サシで飲み…」
そう言う汐莉さんは恥ずかしそうで、少し不安げで。
この顔は俺だけのもんだなぁ…
無駄な自信が沸いてきた。
「まさか!今日は?」
すかさずそう聞く俺はもう、頭ん中がハートで溢れかえっている。
「え、今日?」
「そう、今日、どう?」
「あ、じゃあ…」
「うん、終わったら、カフェ;はぴねすで待ってて」
「分かった」
よっしゃぁ!よっしゃぁ!!
直人より先に俺彼女出来るぜ!
ニヒッ!
ニヒッ!!
チーンってエレベーターが開くと、そこは無人。
俺をわざわざ見送ってくれていた汐莉さんの腕を強引に引っ張って中に入れた!
「え、ちょっ…」
吃驚している汐莉さんを抱きしめて「意味、分かるよね?」って囁いた。
目が合った汐莉さんはもう真っ赤で。
そんな初心(うぶ)な反応が又、俺には嬉しかった。
「佐藤さん…全然意味分かんないっ!」
「え…?」
チーン!
ササっと、離れる俺たち。
何事もなかったかのように、エレベーターを降りる俺をやっぱり見送る汐莉さん。
あれ?あれれ…?
何でかな?
普通通じんだろ…
普通はさぁ…
普通じゃないの?汐莉さん…