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隣のフロアに視線を向けると知らない人ばかり。

でもあたし一人じゃこんな資料作れる訳がない。

きっと今までのあたしだったら気付かないフリをして亜嵐さんのフォローも出来ずにいたと思う。

でも亜嵐さんと出会って、優しさを貰って、あたしも亜嵐さんの役に立ちたいってそう思ったんだ、だから…―――――




「あのっ、お願いがあるんですけど!」

「え?あたし?」

「すみません、あのあたし亜嵐さんの部署の者なんですが、亜嵐さん今日お休みしてまして明日〆切の書類がまだ残ってるんです!…あの手伝って頂きたいんですが…」

「亜嵐風邪?そっかうんOK、手伝うよ!」

「ありがとうございますっ」


何度も何度も頭を下げてあたしはその人、ゆき乃先輩をあたしの部署に呼び寄せた。

ゆき乃先輩は総務の仕事も前にやっていたって聞いて、何かあった時は経理課のゆき乃先輩に聞くと聞きやすいって亜嵐さんが教えてくれたんだった。

うちの部署の先輩とは全く違う風貌のゆき乃先輩はニッコリ笑って快く来てくれて。

もうこんな時間なのにとか…

他の先輩なら嫌な顔されるような事でもこうして教えにきてくれる。


「あねぇ、もしかして梨沙ちゃん?」


不意に名前を呼ばれてあたしは振り返る。

大きく首を縦に振りながら「はい」って言うとゆき乃先輩が又ニッコリ笑った。


「そっか、あなたが亜嵐のお気に入りの梨沙ちゃんか!」


そう続けたんだ―――







「休憩しよっか」


分からないながらも無我夢中でPCと戦っていたあたしの肩にポンッて手が触れると、目の前に美味しそうなコーヒーの香りが漂った。


「あ、ありがとうございます」

「うん、ほら飲んで!あたしコーヒーだけは上手く淹れる自信あんだぁ!てっちゃんに淹れ方教わってね〜。良平がコーヒーばっかだから」


そう言ったゆき乃先輩は自分で言った言葉に照れて笑った。

亜嵐さんの周りの人達はみんな柔らかい雰囲気で、あたしもこの人達と一緒に仕事がしたい…なんて思ってしまう。


「よく気付いたね?これ」


作りかけの書類を指差してニッコリ笑うゆき乃先輩。


「はい。でも…独りじゃ何も出来ないって…身に染みました」

「そんなの当たり前だよ。あたしだって最初は酷かったもん!今でだから偉そうだけど(笑)」