甘えるように視線を香澄ちゃんに移すとニッコリ微笑み返してくれて、調子にのった俺はガバっと起き上がると香澄ちゃんの細い腕を目一杯引き寄せて抱きしめた。
ガッチリ足を開いた間に香澄ちゃんを挟んで細いウェストに顔を埋める。
「あー…すげぇ癒されてるわ俺…」
「クソ直人!離しやがれ、変態!」
癒しも束の間、すごい剣幕の哲也さんにあっという間に香澄ちゃんが剥がされてシュンと肩を落とした。
まだ怒りを持った哲也さんは俺に唾がかかる勢いで文句を言ってるけれど、正直俺の耳には何も入ってこないんだ。
ゆき乃が社内からいなくなるなんて。
毎日逢ってたあの笑顔に、もう逢えなくなるなんて…
「え、直人さん?大丈夫ですか?」
驚いたような香澄ちゃんの声に顔を上げると頬を雫が伝っていて。
今の今まで怒っていた哲也さんは俺を悲しげに見ていた。
「お前、告れよ」
俺の肩にポンって手を置いてそう呟く哲也さん。
香澄ちゃんがポケットから可愛いらしいハンカチを出して俺の頬を拭いてくれるから「あぁ泣いてんのか俺…」そう今更ながら気づいた。
「言えねぇよ、もう」
「言わねぇといつまでたってもゆき乃以外好きな女できねぇぞ」
カチっと煙草に火をつけると、数秒後に煙とマルボロの香りが届く。
哲也さんの言葉を普通に聞いたら優しさに溢れているんだろうけど、今の俺にはそんな優しい言葉さえも素直に聞き入る事ができないくらいに落ち込んでいる。
自分でもどうしようもないんだ。
「別にあいつ以外好きな女なんて作る気ねぇよ俺」
強がったけど、結局何度目かの失恋を自分で言葉にしているだけだ。
空しいだけ。
「そんな寂しい事言わないで下さいよ、直人さん」
分かってる。
俺が落ち込んでるから元気づけようと思って慰めてくれようと必死にそんな優しい言葉を選んでかけてくれてる香澄ちゃんだって。
それなのに…―――
「…香澄ちゃんには分かんねぇーだろ?俺がどんだけゆき乃を好きかなんて。そんな簡単に言ってほしくねぇよっ」
感情を吐き捨てる俺に、言葉を被せたのは当たり前に哲也さん。
「直人ッ!」
しまったこれじゃ…
哲也さんの怒り再来っつーか、今度こそ本気で怒っていて。
俺より少し身長の高い哲也さんに、グイって胸倉を掴まれた。