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分かってんのに、どうしてなんだろ…


「クソッ…」


小さく吐き出して俺は視線を落とした。


「直ちゃん大丈夫?」

「え?」


聞こえた声に顔を上げるとゆき乃…じゃなくて、さっきゆき乃から引継ぎを受けている子が心配そうに俺を覗き込んでいた。

俺を「直ちゃん」って呼ぶその子に見覚えがないはずだったけど…


「あれ?奈々ちゃん?」

「うん!さっき完全に忘れてたでしょ?あたしのこと」


フワって笑われて俺は苦笑いを返した。


奈々ちゃんはゆき乃の親友で、前に一回だけ会った事があった。

ゆき乃が酔いつぶれてどうしようかと思ってた時に、奈々ちゃんに偶然会って付き添って貰ったっていう。

ゆき乃の会話の中にもよく出てくる子で、ゆき乃が「奈々は自慢の親友だ」って胸を張ってよく言っていた。

その外見は華奢で、一般人にしておくのが勿体無いくらいに綺麗だった。


「吃驚した!奈々ちゃんだったの?ゆき乃の後任って…」

「うん、ちょうどタイミングがあってゆき乃に声かけて貰ったんだ。直ちゃん同じ部署だよね? どうぞ宜しくお願いします」


ニッコリ微笑んだ奈々ちゃんからはシャンプーの香りがフワっとして、俺は不覚にもその笑顔にドキっとしてしまった。


「いや、こちらこそ」

「あはは、硬いなぁ〜!あたし直ちゃんしか友達いないんだから、頼りにしてるよ?」


ポンってそう肩を叩かれて正直焦った。

ゆき乃が自慢するくらいの人だから…とかそんなんじゃなくて。

ゆき乃みたいな元気なノリの奈々ちゃんは、今の俺の現状を知らないせいか、すんなり心の中に入り込んでしまいそうで。

初めて会った時とだいぶ印象が違うのは気のせいかな?


「ふぅん…」

「え?」


クルっと振り返ると、営業の篤志さんがニヤって背後から出てきていた。

その口元はニンマリ笑いを含んでいて…


「なんすか…?」

「別に」

「別にってあんた絶対何か企んでるでしょ?」

「別にって言ってんじゃん、ひつけーなお前!おっと汐莉に報告してくっか〜」


ルンルン♪って鼻歌を歌いながら篤志さんはすぐにいなくなった。

でも俺はさっきの哲也さんの所から戻ってきたような苛々が少し弱まっていてどうすればいいか分からない胸の高まりを一人感じていた。