でも、あたしはそんなの全然嬉しくないし…
いつかは黎弥を諦めないといけないんだ…ってそう思っている部分もあって。
でも今すぐにはそれを実行するなんてとうてい出来そうもなく、あたしの黎弥への想いは募るばかり。
そんな事考えているうちに美桜さんに「なっちゃんとお似合い」って言われてほんの少しホッとした。
そのすぐ後には莉子さんに「竜太くんでしょ?」って、これまたホッとして…
「違いますって。なっちゃんでも、竜太くんでもありません!!」
そう答えたあたしに二人揃って「「じゃあ誰?」」って声が届いた。
絶対絶命なんだけど!!
頭の中でそう叫んだ矢先だった。
松本さんを囲むテーブルから拍手があがって、ビールジョッキを片手に持った黎弥が立ち上がってそれを一気飲みした。
そのままジョッキをテーブルに勢いよく置くと、今度はあたし達のテーブルに視線を向ける。
でもその視線は当たり前にあたしに向けられたものではなくって、あたしの前にチョコンって座っている莉子さんだ。
その一瞬で嫌な予感が頭を過ぎった。
今日はお世話になった松本さんの送別会で色んな話が出ただろう。
普段仕事の席じゃ出来ない色恋話がもし出てたとしたら?
調子のいい黎弥のことだから…
そこまで考えてしまったあたしは、全身震えそうなるのを隠すように俯いた。
こっちに向かって歩いてくる黎弥。
ゆっくりと確実にこっちに向かっている黎弥。
きっと莉子さんだけを見つめている。
呼吸困難になりそうなあたしは服の上から胸をグッと押さえつけた。
次の瞬間、叫びのような黎弥の声…
「莉子が好きだ!!」
湧き上がる歓声に目眩がする。
震える体を両腕で摩るあたし。
「俺と付き合ってくれ!!」
恋焦がれていたその人が、あたしの望むその言葉をかけたのは、あたしじゃなくて、あたしの目の前にいる小柄な莉子さんだった。
もう、目の前で繰り広げられている寸劇があたしには聞こえなくて、ただ真剣な黎弥の声だけが鮮明に耳に入ってくる。
こんなにも騒がしいはずなのに、こんなにも歓声にまみれているというのに、あたしの耳には切ない黎弥の声だけが届くんだ。
聞きたくもない黎弥の告白にあたしは完全に耳を塞いだ。
目も耳も塞いでただ時が過ぎるのを待った。