「泣けるか、ボケ」
悲しそうに黎弥がそう呟いて俯いた。
あたしは立ち上がって黎弥の前まで行くとそっと腕を背中に回す。
ビクって一瞬黎弥の体が反応して、でもあたしを拒否することはしなくって…
そっと胸に顔を押し付けるように、黎弥に抱きついた―――…
「ごめんな」
小さくそう言われて、黎弥の片手があたしの後頭部に回された。
どういう意味の「ごめん」なのか考えると胸が痛い。
でも、このままじゃあたしは前には進めない。
だから―――…
「お願いがあるの」
「うん」
「“嫌い”って言って」
又、黎弥の体がピクっとして。
でもあたしは顔を上げることなく続ける。
「“もう迷惑だ、嫌いだ”そう言って」
搾り出すようなあたしの声に、後頭部を押さえつけていた黎弥の腕がどうしてか、ゆっくりと背中に回された。
「言ってよ…」
「言えねぇよ」
渇いた黎弥の儚い声が耳元で聞こえた。
それからあたしの両腕を掴んで、俯くあたしの顔を覗き込んだ。
「これが最後のお願いだから」
「最後とか言うなよ」
どうして?
どうして?黎弥まで泣いちゃいそう。
今泣いていいのはあたしのはず…
最後だから…
もう黎弥に直接傷つけてもらわないと、あたしはいつまでたってもこの想いを持ち続けてしまう。
叶うことのない想いに縛られてしまう。
いつまでたっても前に進めない。
この先誰のことも好きになんかなれやしない。
だから黎弥の口から、黎弥の声で、黎弥の言葉で「嫌い」って言って貰わなきゃダメなのに…
なんで今更抱きしめるの…?
黎弥の気持ちが全然分からないよ…
「ずっと気づいてたゆき乃の気持ち…。でも俺あの人好きだったから応える事は出来ねぇ…ってそう思ってた」
そう言って黎弥は言葉を濁した。
「俺、昨日お前のこと…泣かせた」
ギュって黎弥の腕に力がこもる。
「迷惑だなんて思わねぇし…嫌いだなんて言えねぇよ。俺もうお前しかいねぇもん…」