悲しみ越しの幸せ9


「泣けるか、ボケ」


悲しそうに黎弥がそう呟いて俯いた。


あたしは立ち上がって黎弥の前まで行くとそっと腕を背中に回す。

ビクって一瞬黎弥の体が反応して、でもあたしを拒否することはしなくって…

そっと胸に顔を押し付けるように、黎弥に抱きついた―――…


「ごめんな」


小さくそう言われて、黎弥の片手があたしの後頭部に回された。

どういう意味の「ごめん」なのか考えると胸が痛い。

でも、このままじゃあたしは前には進めない。

だから―――…



「お願いがあるの」

「うん」














「“嫌い”って言って」


又、黎弥の体がピクっとして。

でもあたしは顔を上げることなく続ける。


「“もう迷惑だ、嫌いだ”そう言って」


搾り出すようなあたしの声に、後頭部を押さえつけていた黎弥の腕がどうしてか、ゆっくりと背中に回された。


「言ってよ…」

「言えねぇよ」


渇いた黎弥の儚い声が耳元で聞こえた。

それからあたしの両腕を掴んで、俯くあたしの顔を覗き込んだ。


「これが最後のお願いだから」

「最後とか言うなよ」


どうして?

どうして?黎弥まで泣いちゃいそう。

今泣いていいのはあたしのはず…

最後だから…

もう黎弥に直接傷つけてもらわないと、あたしはいつまでたってもこの想いを持ち続けてしまう。

叶うことのない想いに縛られてしまう。

いつまでたっても前に進めない。

この先誰のことも好きになんかなれやしない。

だから黎弥の口から、黎弥の声で、黎弥の言葉で「嫌い」って言って貰わなきゃダメなのに…

なんで今更抱きしめるの…?

黎弥の気持ちが全然分からないよ…



「ずっと気づいてたゆき乃の気持ち…。でも俺あの人好きだったから応える事は出来ねぇ…ってそう思ってた」


そう言って黎弥は言葉を濁した。


「俺、昨日お前のこと…泣かせた」


ギュって黎弥の腕に力がこもる。




「迷惑だなんて思わねぇし…嫌いだなんて言えねぇよ。俺もうお前しかいねぇもん…」