悲しみ越しの幸せ10


例えばそれが、黎弥が弱っていたからだとしても。

例えばそれが、莉子さんに言われたからだとしても。

例えばそれが、単なる同情だったとしても…

あたしにとってのその言葉は、前に進むどころか、この場に踏み止まることしか出来ない言葉だった。

でも、その言葉の中にある真実を、今は信じたいんだ。

今だけでいいから。


あたしが考えて出した答えに応えてくれなかった黎弥は、莉子さんにフラれて寂しいのかもしれない。

こいつだけは俺のことを好きでいてくれる…って。

こいつだけは俺の味方でいてくれる…って。

こいつだけは俺の側にいてくれる…って。

そう思っているのかもしれない。

一人が寂しくて、あたしを穴埋めに使おうと思っているのかもしれない。

でもそれは、あたしの事を好きとかそういう感情じゃなくて、単純に寂しいから。

一人が嫌だから…

あたしの気持ちを利用したとしても、それでもいいと思ってしまうあたしははたから見たら滑稽なんだろうか。


人の気持ちなんてそんなに簡単に変わるもんじゃない。

今すぐにあたしの事を好きになってくれる事でもないし、結局側にいてもあたしを愛してくれる事すらないのかもしれない。

でも、心から大好きな人が弱っていたら

自分を頼って弱みを見せてくれたのなら

それを拒否出来る人間なんていやしないんじゃないかと思うんだ。

騙されてたとしても、その場の感情だけでそう言っただけだとしても

あたしはこの人から離れたくなかった。

莉子さんの変わりでも構わない。

あたしを見ていなくても構わない。

今のあたしが黎弥に出来る事って一体なんだろう?

黎弥の為に出来る事って…何がある?



―――――――――…




「え?」

「どうせ残業続きでろくなもん食べてないんでしょ?」


時計の針は20時過ぎをさしていた。

仕事が忙しい今の時期残業は欠かせなくて、楽しみの飲み会も今は開催されていない。

定時をとうに過ぎていてもまだPCに向かっている社員は沢山いて黎弥もその中の一人だった。


「温っけぇーじゃん」

「うん。煙草と珈琲だけじゃ体に悪い。…美味しくなかったら捨てていいから!」

「捨てねぇよ、ありがとう」


苦手だけどすっごい料理下手くそで失敗ばっかだけどそれでも黎弥を思ってお弁当を作る時間はあたしにとって最高に幸せな一時だった。