「え、残業?」
「うん、ごめんな」
電話口の陸ちゃんの声はあからさまに落ちていて。
元々忙しい部署だから残業は結構よくあることだから気にもしないようにしようってそう思っていた。
けど、今このタイミングで残業って…
「本当に仕事?」
「え?」
あたしの質問に困惑したような陸ちゃんの声が返ってきて。
「どうした?」
それから優しくそう聞かれた。
「サチコさんも一緒なの?」
「あーうん。一緒の仕事だから。でも本当に仕事だよ?終わったら寄り道しないで帰るから、俺のこと信じて待ってて?…俺も、美桜のこと信じてるから…」
何気なく言ったのかもしれない。
サラッと想いを口にしたのかもしれない。
でもその陸ちゃんの台詞は絶対におかしくて!
陸ちゃんあたしのこと疑ってるの?
「待って、陸ちゃんあたしのこと疑ってるの?」
「え?別に違げーけど」
けど、なんだよ?
「健太と…」
そこまで言って言いたいことが分かった。
昼間の健太との会話、やっぱりサチコは聞いていたんだ。
それ陸ちゃん信じるの?
「何?健太と何だって言うの??」
あたしは完全にヒートアップしちゃって。
「何もないって、信じてるって言ってんだけど、何怒ってんの?」
声のトーンが上がったあたしに対して、1トーン下げる陸ちゃんは確実にちょっと怒っている。
「怒ってなんかないよ!!」
そう叫んだ声は完全に震えていて、受話器越しに陸ちゃんの小さな溜息があたしに届いた。
「そう?んじゃ、切るな。とにかく今日はごめん…」
電話を切ったら、切られたら、涙が零れた。
こんな言い合いしたかったわけじゃないのに…
悔しくて、悔しくて…
サチコと残業云々より、陸ちゃんがサチコの言葉を真に受けて、あたしを疑ったってことが許せなかったんだ。
そんなあたしに追い討ちをかけるかの如く―――