「香澄、お願い! 一回でいいから。どうしても人数足りなくてさ…気に入らなかったら食べてればいいから!」
大学の友達に強引に連れて行かれたコンパ。
といってもただの居酒屋だけど。
金曜日の今日はバイトも入れてなくって…
夏喜さん達も金曜はだいたい飲みに行っちゃうって言ってたし…
ってあたし…
最近夏喜さんのことばっかり考えてない?
あの日、ゆき乃さんの話を聞いてから丸々一週間、夏喜さんはカフェ;はぴねすには来てくれなかった。
あたしがあんな事聞いちゃったからかな?と思わずにはいられない…。
もしあたしのせいだったら…
なんて考えれば考える程、自分が嫌になっていくみたいで…。
今度夏喜さんに会ったら、どんな顔をしたらいいのか正直分からずにいた。
そんなあたしに聞こえてきたのは、お店の奥にあるお座敷からの歓声で…
ほんの一瞬お店の中の視線を独占したそのお座敷からは拍手と歓声が鳴り止まないでいる。
そうとう盛り上がっているようなお座敷にボーっと視線を向けていると、物凄い歓声と拍手とバンザイの三唱が響き渡る中、その輪から抜け出すかのよう、まるでその世界から連れ去るみたいに、女性を抱きかかえながら男性が出てきて…―――
「な…つき…さん…?」
あたしの声は、真横を通り抜ける夏喜さんらしき人には全く届いてなくって…
もうそれは無意識っていうか…引っ張られている人は絶対にゆき乃さんだってそう思って、足が勝手に夏喜さん達の後を追いかけていた…
飲み屋を出た所にある踊り場の壁に寄りかかるようにして、夏喜さんがゆき乃さんをギュウって抱きしめていた―――
泣いているゆき乃さんをただ、ただ強く抱きしめていた…
どうしてだか分からないけど…
涙が溢れてしまって
あたしはそのまま一人、家に帰ったんだ。
今更、好きになったなんて言わないけど…
ほんの少しだけ、あたしは夏喜さんに惹かれていたのかもしれない。
あんな大きな愛情…
あの人以外に注がれることも嫌だと思った。
それはきっと、夏喜さんがあの人のことを本当に大好きだから。
例えあの人が夏喜さん以外の人を想っていても、あたしは夏喜さんの恋を応援したいと思ってしまうんだ。
ゆき乃さんに届いて欲しいと願うんだ。