ホテル-Happiness-株式会社。
高校を卒業してから行く宛もなく適当にバイト暮らしをしていたあたしに舞い降りてきた就職先。
パパがそこの会社の役員室に勤めていて、あたしを推薦してくれたみたいで、あっさりとこの大手に就職が決まった。
やりたい事が特にある訳でもなく、単にお金が欲しいから…って甘い気持ちですんなりお受けしたものの、目の前にそびえ立つ大きなビルを見上げるあたしは少々逃げ腰。
こんな会社で、ちゃんと働けるかなって不安もあるし。
友達できるかな…って。
素敵な人とかいるのかな…
お金持ってるイケメンがいいな〜…
いつの間にか不安だった頭の中は、希望に変わっていて、応接室の扉を開けた瞬間それは確信に変わった。
「担当の田崎です、宜しく」
そう言って発した声は甘めの低音で、涼しげな目元は女以上に色気があった。
目にかかりそうな黒髪の中に金色のメッシュが入っていて、黒いスーツを綺麗に着こなしている。
飛びつきたくなる気持ちを押さえてあたしは軽く頭を下げた。
パパ超ナイス!
こんなイケメンがいる会社最高!
っていうかあたしの上司とか。
これってまさに…
禁断の社内恋愛!
大人恋愛じゃんっ!
舞い上がっていたのも束の間、田崎さんの右手薬指には黒を銀で包んだシンプルな指輪がはめてある。
それって、ペアリング?
切な――――いっ!
「あのっ」
思い切って出した声は少しだけ上ずっていて、でもその視線を独占したあたしは嬉しくも感じて。
「はい」
「か、彼女いますかっ?」
「…は?」
眉間にシワを寄せて黒眼鏡の下から見つめる瞳は綺麗で…
あたしはやっぱり見とれてしまうわけで。
「付き合ってる人、いますか?」
恥じらいもなく再度聞いた。
田崎さんの瞳は一旦宙を舞ってそれからあたしに戻ってきて…
「俺の本命、俺以外の奴見てんの」
ちょっぴり切ない言葉が続いた。
田崎さんについて、色んな部署を回るあたし。
まだ一週間しかたっていないけど、あたしの仕事は田崎さんの仕事をただ見ているだけで電話一つ取れない。
それどころかある噂が広まっていて…
「ほら、あの子…若いのによくやるよねぇ」
そんな野次は日常茶飯事で、田崎さんまで悪く言われてるんじゃないかって思えた。