そう言うと、直ちゃんはあたしから目を逸らして小さく溜息をついた。
視線の先には田崎さんに紹介された、小柄な莉子さんと、ゴリラ扱いされてた黒沢さんがいた。
仲良く話しながら歩いていて…少しお似合いな感じ。
「ハルちゃんは敬浩さんが好きってこと?」
直ちゃんの質問に「はい」って大きく答えたけど、その気持ちが本物なのかはあたしもよく分かっていない。
まだ会って間もないっていうのは勿論のこと、好きな人がいる相手を追いかけるのを面倒くさいって思う部分も正直ある。
でも、あの時感じた田崎さんへの気持ちに嘘はつきたくなくって。
「そう…」
急に無口になった直ちゃんは、「ごめんいい?」って煙草を出した。
「どうぞ」
って言うと、カチっと煙草に火がついて、煙の独特な臭いが漂った。
「敬浩さんの本命がゆき乃かどうかは俺には分からないけど…ゆき乃の恋を応援したいって気持ちもすげぇ嬉しく思う。けど…そんなに簡単にうまいこといくもんじゃなくね?…俺は、ゆき乃が傷つくことだけは、嫌なんだ。ごめんうまく言えないんだけど、簡単にゆき乃の想い…に触れないでやって」
俯いていた直ちゃんは泣き出しそうな声だった。
「直ちゃん…」
ゆき乃さんのこと、好きなんじゃん。
しかも、ゆき乃さんの好きな人まで知ってて、それでも好きなんじゃん!
何で大人って、こんな切ない恋愛ばっかりするんだろう。
「分かりました」ってあたしの言葉と「ごめんな」って直ちゃんの言葉が小さく重なった。
そんな顔されたら、そんな声で言われたら、
納得するしかないって思ったから。
あたしだってもう大人の仲間入りしてるんだから、そのくらい悟ってやらないとダメなんだって。
これが社会人なんだって…
この日初めて学んだんだ。