「ちょっと夏喜!」
「え、俺なんかまずいこと言った?」
なんてことないって顔でビールを飲む夏喜に色々言いたいけど、言っちゃったら私と夏喜の関係もユーセイにバレる。いやもうバレてるかもしれないけど、それでも今この場でユーセイにそーいう目で見られたくないなんて乙女な事を思ってしまう。
ユーセイが作ってくれた桃のカクテルを一気飲みすると、ハルの手を引いて夏喜に向かって言い放った。
「帰る。」
「は?え?おい、雪乃!?」
「夏喜だって…、」
何回か寝たぐらいで彼氏面すんなよ!…って続きは、とてもじゃないけど言葉に出せなかった。やっぱり今の時点で私はユーセイには嫌われたくないって思っている。
軽い女のくせに、ユーセイにはそんな女だって思われたくないって…
ユーセイの顔も見ないで私はクラブから出た。
「雪乃さん。夏喜さんのこと大好きだったよね?なっちゃんかっこいい、なっちゃん大好き…って。」
眉毛の下がった困惑したハルの顔に視線を逸らす。ハルの言う通り夏喜のことが大好きなはずなのに、ユーセイにセックスだけの関係だと知られそうになる事がこんなにも苦痛だなんて。
「ハル私…自分でも分からないの。勝手にユーセイを運命の相手だって思ってたからなのかな。まだ知り合って2日目なのに私、ユーセイのこともっと知りたくて、」
やだ、泣きそう。色恋で泣く女なんて信じられないって思ってた。そもそも男を想って泣く行為が私には意味なんてないと。そんな風に思えるくらい好きだと思える男に残念ながら出逢えていないのが、悲しい事実だ。
さっきまで曇り空だったら空からはパラパラと小雨が降ってきていて、まるで泣けない私の涙のよう。
だけど、トンって靴音の後、「雪乃さん!」聞こえた声に胸がギュッと締め付けられた。
「ユ、セイ…。」
「泣いてる気がして。僕の勘違いかもしれないけど、」
ふわりと頬に絡みつくユーセイの温かくて大きなその手に、自分の手をゆっくりと重ねた。
「今朝の質問、内緒って答えたのは、あの人の事があるから?」
…コクンっと頷くと、ギュッてユーセイに抱きしめられた。
「僕だけじゃダメですか?僕だけじゃ、」
「ユーセイ、私、そんな風にユーセイが可愛いと思える女じゃない。ごめん、」
両手でユーセイの厚い胸板を押して私はハルの手を掴むと、地下鉄の駅へと逃げるように走って行ったんだ。
せっかく追いかけてきてくれたのに。
欲しいと願った言葉を貰えたのに。
「馬鹿みたい。」
小さく呟くと、地上の小雨が大粒の雨に変わった。