たった一言の威力1


どんなにプライベートで嫌なことがあっても、気分が上がらなくても、それを仕事に持ち込む奴は年上だろーが、上司だろーが、人間としてよろしくないと思う。

そう思っているから、自分もこういう時こそ頑張ってしまうものなんだと知った。


「保科さんちょっと。」


部長によばれて着いていくとそこには黒髪サラサラの細身の男が立っていて。こちらを振り返って軽く会釈。


「今日からうちの部に移動になった澤本くん。しばらく見てやって欲しい。」


…そういや先週言ってたっけ!?いやお前言うの遅いけどね、先週とかでも。


「保科です。よろしくお願い致します。」
「澤本です。どうぞよろしくお願い致します。」


ご丁寧に深々と頭を下げてニッコリ微笑む澤本さんは、無臭で爽やかな印象だ。

よくよく話すとどうやら同じ年らしい。


「高校卒業して一年間バイトで繋いで大学に入ったから。なんだ、澤本くん同じ年か!」
「だね。敬語使わないでよ、だから。呼び方ももっとフランクで構わないんだよなぁー。」
「え、じゃあ澤くん!なんか澤くんって感じ!ね、ね、いい?」


ふわりと澤くんの腕を取るとニッコリ微笑んで「もちろん。よろしくね、雪乃ちゃん!」なんだろ、澤くんは癒し系なのか、沈んでいた気持ちもほんの少し和らいだ気がした。

だけど、時間がたつにつれて昼間はあったはずの元気もなくなってくる。

LINEにはハルからのご飯の誘いが入っていて。つーかハルの奴、いっぱいLINEしてきて仕事してないんじゃねぇか!

ハルの下、ユーセイからのLINEも何件かきているけど、私はまだそれを開くことができずにいる。

今日は定時であがってハルにマッサージでもして貰おうかなぁーなんて思っていたら、見ていた書類に違和感を覚えた。

げ、また間違えてるよ、ポンコツ。これだからポンコツなんだよー。

小さく溜息をつくと斜め前に座っている八木の頭をポカンと殴ってやった。


「八木!」
「はい、え!?あの、」


私を見て目を泳がせる八木のデスクに書類をバサリと落とした。


「ここなに?この数字。ちゃんと計算した?」
「え、はい、しました。」
「手計算よ。これ計算式間違ってるわよ、ここから一つズレてる。」
「えっ!?」


時計の針は間もなく定時。基本的に残業はしない主義な私も、ここ最近はこのポンコツのせいで残業が増えた。