「すいません僕。」
「…なんか、あったの?」
「へ!?」
興味のない奴でも、ここまで目に見えて分かるぐらい困った顔の八木に気づかないほど鈍感じゃない。
「今日ずーっとココにシワ寄せてるわよ。」
眉間を指差してそう言うと真っ赤になった。俯いて「すいません。あの、僕…、」え、なに!?
八木が私の手に触れそうになって、慌ててその手を引っ込めた。
「ちょっと、」
「あ、すいません。ちょっと頭冷やしてきます!すいません!」
一人でテンパってる八木は、立ち上がると私と澤くんの横を走り去った。
あの日以来、八木からユーセイと同じ香りはしない。
「なんだぁ、あれ。」
「可愛いーじゃん。あれは恋の病だね、きっと。」
澤くんはそう笑ったけど、あんなに動揺する八木と自分が小さく重なったようで何故か笑えなかった。
恋に溺れる人間を馬鹿だと思ったけど、溺れる程誰かを愛せる人が、正直羨ましくもある。
この矛盾したモヤモヤから私は一体いつになったら抜け出せるんだろうか。
八木が頭を冷やしに行ってる間に、私はLINEを開いてハルに残業だからごめん、と伝えた。
一つ息を吐き出して、ユーセイからのLINEを震える指で押した。
「なによ、これ。ばっかみたい…、」
スマホを握りしめたままフロアを出て社内の奥にあるカフェに行く。そこで深呼吸をすると私は通話の電話ボタンを押す。
聞き慣れたLINEの着信音が耳に響く。誰かに電話をかけるのにこんなにドキドキするのは初めてで。
3コール目で【雪乃さんっ!?】聴きたかったユーセイの声が届いた。
「LINE見たけど。」
【…よかった。読んでくれて。】
「ユーセイ、私の事好きなの?」
【ふは、相変わらず直球ですね!雪乃さん。】
「だってそう思ったんだもの。」
【…好きだと思います。】
「…曖昧じゃない?」
【いや、あの、会って直接伝えたいです。今夜僕の部屋に来ませんか?】
「それって誘ってる?」
【…まぁ、はい。】
「…行く。あ、でもポンコツのせいで残業になりそうで、でも頑張る!だから待ってて。終わったら連絡するから。」
【…すいません。僕も頑張るので。】
「何を頑張るのよ?変なの。じゃあまた後でね。」
たった一言ユーセイからの「逢いたいです。」って文字にこんなにも心が軽くなるなんて。