高嶺の花2


「八木ちょっと。」


営業部の部長に呼ばれた俺は恐る恐る部長室に入る。そこにいるのは確か編集部の部長。

頭を下げると「6月から編集部に来てみないか?」…思ってもみない言葉だった。

営業もろくにできていない自分が、編集部が務まるんだろうか?一瞬で不安になった瞬間だった。コンコンと、部長室を叩くドア。


「失礼致します。」


綺麗なソプラノボイスと、肩より上のボブカットの女性。だけど分かる。あの日顔なんて見なかったし、喋り方も声色も違うけどこの人が俺の運命の相手、「雪乃」だと。


「あー保科さん、6月から営業の八木を編集で見てもらいたいんだけど。」


真っ直ぐに俺を見つめる雪乃さんに一人心拍数があがる。


「かしこまりました。保科です、よろしくお願いします。」


ニッコリ微笑む雪乃さんに慌てて頭を下げる。凛としたその姿は俺にとってなんていえばいいのだろうか、例えるのならばそう…―――高嶺の花のよう。

あの人の視線の先に映る男になりたい。そんな思いが体のそこから溢れたんだ。



それから俺は雪乃さんの下で編集の仕事を教わった。勿論まだまだペーペーで覚える事は山ほどある。だけどそこに雪乃さんがいるってだけで、ただ嬉しいんだ。


「あの、保科さん。もしよかったらご飯とか…、」


仕事が終わると彼女は、いつも一目散に帰って行ってしまう。だから終わった瞬間に誘わないとって、何度目かの誘い。

残念ながら冷めた目で俺を見た雪乃さんは「先約。じゃ。」…口数少ねぇ!仕事の事は色々話してくれるもののプライベートは絶対に見せない人で、いつもどーしてるのかめちゃくちゃ気になっていた。

あーどこで遊んでるんだよ。1ヶ月たっても何の進展もない。てゆうか、全く相手にされてねぇ。プライベートな事何も答えてくれねぇし、どーすりゃいいんだ?