「完敗。どーすりゃいんだよぉーもおー。」
「いい眺めだなぁ!勇征が恋に悩むとか。」
カウンターで項垂れてる俺を嬉しそうに見つめる翔太さんに苦笑い。大学の時の先輩で、お洒落な翔太さんは昼間はアパレルで働きつつ夜は時々こうしてクラブのカウンターでバーテンをやっていた。俺も時々翔太さんに頼まれて同じようにバーテンをしていたけど、社会人になってからはほとんどそんな事もなく。久々に呼び出されてここに来たことすら、運命なんじゃないかって思うんだ。
「掴めなくてあの人。全然俺の事なんて見てくれないし、」
「へぇ。勇征でも落とせない女がいるんだな。それは興味がある。」
「…翔太さんかっこいいからできれば出逢わせたくないんで。」
「ばーか。ほらこれ飲めよ。今日は勇征に話しあって。」
「ああ、なんですか?」
相変わらずうまい酒に少しだけ元気になる。
「いやアパレルの方ちょっと忙しくて。夜人足りねぇの。たまにでいいからさ、俺の代わりやってくれないかな?」
「バーテンですか?」
「そう、ここの。」
「いいですよ、たまになら。」
「サンキュー助かる。」
コツって翔太さんがグラスをくっつけて乾杯。だけどその時だったんだ―――――
「ゆき乃さん待ってー!」
その名前に反応した。俺の後ろを通り過ぎるのは会社で見るゆき乃さんとは雰囲気すら違う。毛先をやんわり巻いた赤みがかった髪。メイクもいつもよりもちょっと濃いめで、服装がパンツではなくスカート。てかAラインのふわっとしたワンピースを着ていて…
「やべ、めっちゃ可愛い。」
今日は俺も会社にいる八木勇征とは別。プライベートと会社と分ける為に真面目そうに見える丸眼鏡をかけて、髪はラフにストンと下ろしている会社とは違って固めてあげて、眼鏡も外していて。何より服装がスーツじゃなく私服。黒を基盤にした普段より大人っぽく見える服装だった。
「勇征?」
「え?いえ。なんでも、」
…危ねぇ。翔太さんにバレたら堪んない。この期に及んで女取られたらさすがに凹む。最も翔太さんはそんな事する人じゃないけど。
ゆき乃さんがプライベートを隠している訳が一目で分かった。会社とはまるで別人のゆき乃さんに気づく奴なんてきっとそんないないと思う。
これはチャンスだ。
だから俺は入れる日はとことん入った、このクラブのバーテンとして。
それから2週間後、俺の前にやっと現れたんだ――――高嶺の花が。
「こんばんは!1杯お願いできますか?」
綺麗に咲く高嶺の花が俺に話しかけた―――。