病み上がりのままそれでも翌日には会社に足を運んだ。
相変わらずザワついたフロア内は、話し声とPCを打つ音、書類をめくる音…色んな音が飛び交っている。
席についた私の斜め前、既に出勤しているであろう八木が「大丈夫ですか?」壁越しに声をかけてきた。当たり前に八木封じで見えなくしたその壁はまだ崩せそうもない。
「うん。」
小さく頷いた私は書類を抱えて会議に行く澤くんに駆け寄った。
「雪乃ちゃん!大丈夫!?」
「澤くんごめんね。昨日の引き継ぎするから、会議終わったら声かけて。」
「それはいいけど、」
そう言うと澤くんはほんの少しだけ眉毛を下げて私の腕を掴んだ。「ちょっとこっち来て。」編集部の出入り口には大きな衝立があって、一応外からは見えなくなっている。そこに私を連れ込んだ澤くんは、一つ息を吐き出して私を真っ直ぐに見た。
「澤くん?」
「かっこいい彼氏となんかあったの?」
「…――え?」
「悪いけど顔見れば分かるよ。ここが痛いってことぐらい…。」
ポンって自分の胸元を手で軽く叩く澤くんから視線を逸らす。色んなこと気付かれているんだろうって思うけど、きっと澤くんは私から話すことを待っててくれているんだって思えた。
こういうこと、ハル以外に話したことなんてなくて。心配してくれる人がいるってことが、本当は物凄く有難いことなのかもしれないなんて、今更だけど。
「優しくされると泣きそだから、もう少し待って。でもありがとう…嬉しかった。」
ポンって優しい手が頭に乗っかる。見上げた澤くんはやっぱり想像通り優しく微笑んでいて。
「了解。ちなみに、昨日の雪乃ちゃんの仕事、全部八木がやってたから。八木に聞いてな!」
…嘘でしょ。笑顔で手を振る澤くんに、やられた気がした。