無意識の感情1


正直、八木はポンコツで仕事のできない奴だと思っていた。バイトみたいなミスは多いし、防げるミスばっかりで。誰だってミスはある。でもまるで責任感のないミスは、イコール人としても信用がかける…って事だって。だから少しでもそういう部分の見える男ははなっから恋愛対象外にしていた。

―――そう、今日までは。



「では皆さん、どうぞよろしくお願い致します。」


…圧巻だった。余分なものが何一つない完璧な会議だった。

そんなこと一つで、人間なんて見る目が変わるもの…だろうか。


「雪乃さん。」
「うん?」
「大丈夫でしたか?今の感じで、」


不安そうに聞く八木。ちきしょう…ポンコツって呼べないじゃない、もう。八木を見つめ帰すと見る見る真っ赤になってめをそらされた。


「あの、雪乃、さん?」
「…それ無意識?」
「え?」
「雪乃。ここ会社よ、」


ハッとした後、今度は耳まで真っ赤になって小さく息を吐き出す。だけど次の瞬間、熱のせいかフラッと八木が崩れて、「ユーセイ!」…倒れそうな八木を支えた私もまた、無意識でユーセイと呼んだなんて。


「ごめんなさい、でも少しだけ。一分だけこのままでいて…、」


怒られると思ったのか、拒否られると思ったのか、何も言わない私に八木がギュッと遠慮がちにでも強く抱きしめた。

香水なんてつけてないのに、この胸板、この腕の温もり、それから心臓の音…どれもこれも身体が覚えてる。

そっと目を閉じてユーセイの肩に顔を埋めると小さく甘い声で囁いた。

「愛してる、」と。