カツンっとマンションのエントランスに入って彼女の部屋番号を押す。
「あ、今あけるー!」
そんな声がしてマンションのドアが解除された。
手前にあるエレベーターに乗って8階で降りる。
それから外階段を使って10階まであがる。
それが俺達のルール。
その間にLINEで連絡を取り合って大丈夫か確認してから、ようやく彼女の部屋のピンポンを押した。
すぐにガチャっとドアが開けられてその姿が俺を部屋に迎え入れる。
すぐ様後ろ手で鍵をカチャンってかけながら、俺は彼女を壁に追い込んでキス。
玄関で盛ることなんて茶飯事で。
舌を絡ませながら、腰を抱きながら靴を脱いで奥のリビングへと移動する。
「ナツ、お帰りー!」
ギューって俺に抱きつく女をふわりと抱きしめ返した。
「ただいま、雪乃さん…」
「お酒臭い、結構飲んだの?」
俺のスーツを脱がせながらそう言われて。
「俺より雪乃さんが飲んだとか。アイツに飲まされたの?」
「うん!だって一人じゃ飲めないって言うから。可愛くてつい飲んじゃった!」
「もー。雪乃さん酔うと甘え上手なんだからさぁ。俺の前以外ではダメだから…」
思わず口を尖らすと、ニコッと笑って俺の膝の上に座る雪乃さんの手が唇を指で摘む。
は?なにすんの?
そう目で訴えるとケラケラ笑っていて。
「ナツ可愛い!ヤキモチ?酔うと触りたくなっちゃう私、心配?」
顔を寄せてスレスレで話す雪乃さんが俺を誘うように耳に唇を掠めていて。
「ヤキモチだし心配だよ。ダメだから俺がいない所で酒飲むの!絶対ダメだから。他の男とかに触るの許さねぇからマジで」
言いながら恥ずかしくて目を逸らすと、すぐにグイッて顔ごと雪乃さんの方にむかされる。
「照れてるナツも、ずっと見てたい!可愛いナツ、だいすき…」
チュッて降りてくるキスに、雪乃さんを受け止めながら服の上から胸に触れる。
「愛してる?」
俺が聞くと微笑むだけの雪乃さん。
だいすきはくれても愛してるはくれない雪乃さん。
身体の繋がりはくれても、心全部はくれない雪乃さん。
この人の「愛してる」を貰えるのは、この世でただ一人、陸さんだけだって。
入社して緊張していた俺に屈託のない笑顔で話しかけてくれたのが雪乃さんだった。
どんなに忙しくても俺と会うといつも声をかけてくれるその優しさと笑顔に、好きにならずにはいられなかった。
でも想いを確信した時には雪乃さんはもう陸さんのもので。
だから諦めて告白してきてくれた朝海を選んだ。
だけどあの日、そのチャンスは俺に舞い降りた。
真面目ゆえに、その優しさゆえに、陸さんが元カノに付き纏われていて、それで色々あって傷ついていた雪乃さん。
あんま飲めない酒を浴びるように飲んで潰れていた雪乃さん。
「苦しいなら楽になっちゃえばいいよ。俺が楽にしてあげる…」
弱っていた雪乃さんに付け込んだって分かってる。
もしかしたら目が覚めたら覚えてねぇかもしんない。
俺を責める?それとも自分を責める?
そんなのどうでもいいって思たった。
今この繋がりで雪乃さんの気持ちが陸さんから解放されるのなら。
それだけだったんだ―――朝海の気持ちなんてこの時は全く考えてなかった。