翌朝目覚めた雪乃さんは、しっかり全部覚えていて…――酷く泣いていた。
それをボーっと見ていた俺は、そのままただ泣いてる彼女を抱きしめるしかできなくて。
「ごめん」って謝る俺を雪乃さんは震える手で抱きしめ返した。
それが俺たちの本当の始まりだったんだ。
俺との行為で陸さんから解放された雪乃さんは俺からの二度目の誘いを受け入れていくれた。
だからだろうか、俺はいつだって朝海に優しくできて、朝海を可愛いと、好きだと思う気持ちまで強くなっていった。
「ナツ、ベッドでして…」
ソファーに押し倒す俺を笑いながらも受け止める雪乃さんの部屋に、不意にカチャンって音がした。
見つめ合ってキスをしようとしていた俺たちの前で足を止めた。
「…なに、してんだよ…お前ら…」
…陸さんがあり得ないって顔でこっちを見ている。
「陸…」
慌てて雪乃さんの上から飛び降りたけど、もう何を言っても遅い。
やべぇ、人生最大のピンチだ…。
「早く終わったから雪乃の顔見に来たのに、なんなんだよ…」
「陸、ごめん。ごめんなさい…」
雪乃さんが俺から離れて陸さんの足元に這っていくけど、その手を振り払う。
反動でバランス崩した雪乃さんを俺が慌てて支える。
「陸さん俺が悪いんです、俺が雪乃さんを誘ったんです、雪乃さんは悪くないですっ!」
「悪くないってなに?お前らキスしてんのって俺に悪くないの?夏喜だけのせいでいいわけ?」
淡々と喋る陸さんは正直すげぇ怖い。
こんなんなら怒鳴り散らされた方がまだいい。
「陸ごめんなさい。ナツじゃなくて、私が耐えられなかったの、陸とサヤカちゃんのこと…」
それ言っちゃう雪乃さんずりーって思ったけど、それで苦しんでいたのは真実だから。
「陸優しいからサヤカちゃんのこと断り切れないの見ててずっと苦しかったの。ナツはその苦しみとってくれた!だから私が悪い!!ごめんなさいっ!!でも私…愛してるのは陸だけ…」
雪乃さんの泣き声に陸さんの手が震えていて。
なんで俺、雪乃さん抱いちゃったんだろって。
こんな時に浮かぶ朝海の屈託ない笑顔。
「なっちゃん、なっちゃん!」って俺の腕に絡みついてうるせぇくらい俺に愛を注いでくれる朝海が浮かんで離れねぇ…。
「陸さんすいません。雪乃さんは許してあげてください」
「…やめろよ、二人とも。なんでそんな庇いあってんの?俺立場ねぇじゃん…マジどうしたらいいの?」
…怒りなのか泣いてるのか、陸さんの声は震えていて。
「帰るわ…。雪乃…」
「…陸、」
「不安にさせたのは悪かったと思う。けど夏喜じゃなくて俺に言えなかった?辛い思いさせて気にかけなかった俺も俺だけど、まず俺に言うべきじゃないの?」
「陸さんに言えなかったから俺に言うしかなかったんすよ」
「黙れよ、夏喜!!」
ダンって壁を殴りつける陸さん。
完全にキレてるのを今、感じた。
「入ってくんなよ、頼むから…」
「すいません…自分が帰ります…」
雪乃さんの肩から手を離してコートを持つと俺はこの家を出た。
終わったんだと。
でもすぐにドアが開いて、振り返った俺に陸さんからの拳が一発。
ドタンって壁に吹っ飛ぶ俺の前、肩で大きく呼吸をする陸さんが「ごめん夏喜、二度とここにくんな…」悲しそうに呟いた。