「何か疲れてません?」
窓を拭きながら私をジッと見つめる瞳は大きくてキリッとしている。
「疲れたよー。今日地元の友達の子供全員相手にしてたから、変な所筋肉痛。マッサージ行きたいー。温泉入りたい。お肉食べたい!」
「ぶっ!!肉って。相変わらず面白れぇ、ゆき乃さん。俺あと5分であがりなんっすけど、肉一緒に食いに行きませんか?あ、アニキに怒られます?」
「えっ?」
まさかの誘いにドキッとした。
確かに黎弥がうちに何度か連れてきたことはあるし一緒にご飯食べたこともある。
だけど、まさかの2人きりはさすがになくて。
「あ、やっぱ2人じゃまずいっすよね?」
なんてことないって顔だった。
別に私に断られた所で、痛くも痒くもないって。
この歳になると、食事一つ誘うのだって抵抗があるっていうのに。
断られたらどうしよう?とか、こいつ俺のこと好きなの?って勘違いされたらどうしよう?とか、どーでもいいようなことを頭の中でアレコレ考えて結局誘えなかったりするっていうのに。
目の前の彼はそんなの全く感じていないみたいな顔をしている。
なんかちょっと悔しい。
「いいよ、行こう!付き合ってくれるかわりに、お姉さんが奢ってあげるよ!」
悔しいから年上ぶってわざとそう言った。
別にキミとご飯行くことぐらいどーってことないよ!って、意味も込めて。
「え、ほんと?嬉しいっす!お言葉に甘えて肉行きましょう!んじゃ俺着替えてきますっ!!」
嬉しそうに微笑んで走って行く後ろ姿に、無駄に心臓が高鳴った。