わたしが一歩入るとそこはもう既にギャラリー達で埋め尽くされていて。
「おー!こっちこっち!」
白衣姿の剛典が銀眼鏡の奥の瞳を細めて笑いながら手を振った。
「どっちが勝ってるの?」
ゆき乃先生の質問に一度わたしを見た剛典は、口端をほんのり緩めて「朝海は?どっちに勝って欲しいの?」なんて聞くんだ。
そんな馬鹿げた質問答えるわけが無い。
…てか実際どうなの?
少なからず数分前までは健太を想っていたはず、だよね?
見つめる視線の先は、真っ赤な髪を振り乱して必死で健太に食らいつくようにディフェンスをしている未来。
両手を大きく広げて健太のパスコースを塞ぐも、一瞬の隙を着いて未来のディフェンスを交わした健太にレイアップシュートをすんなり決められ2点が加算された。
「神谷の圧勝だけどさぁ、深堀のあんなイキイキした顔初めて見た気がする。神谷に負けず劣らず本気なんじゃない?」
小さく剛典に背中を押されて一歩だけ前に出た。
その瞬間、未来の視線がわたしを捉えて…握った拳にキスをするとその手で真っ直ぐにわたしを指した。
ドクンと心臓がうごめくのが分かったんだ。
「大丈夫!なんかあった時には俺が守ってやるから。朝海は朝海の心に素直になれよ。」
「…剛典。」
「朝海のそんな顔も、初めて見たから!」
くったくなく笑う剛典に、心の奥底がハッキリと見えたんだ。
ギュッと自分の手を握りしめて試合を見つめる。
お願い、勝って!!!!!
祈るように目を瞑ると次の瞬間、大きく歓声が沸き起こった。
未来が放ったスリーポイントがスポンとゴールに決まった後だった。
「へーこれで10点差、十分逆転はできんだろ!」
そんな剛典の言葉通り、そのシュートで流れが変わったのか、一気に未来が追い込むかのよう、放つシュートが尽く決まっていく。
「クソッ!!!」
額にかかる汗を指で払う健太は息があがって肩を大きく揺らしている。
「煙草の吸いすぎだな、ありゃ。」
反対側、バテている健太を見てゆき乃先生が小さく呟いた。
「ほんと、馬鹿だよ。」
「ネコあのね、大変だよ、生徒と付き合うのは。いいね、頑張れ!って応援してくれる人なんて1人もいやしない。それでも人を好きになる気持ちはとても大事で、自分と同じ想いを返してくれる人がいるってことは、やっぱり奇跡だと思うの。ただね、岩ちゃんも隆二も私もみんなネコの事応援できちゃうから、だからしっかりね!」
パシッてゆき乃先生にも背中を押された。
感動的なお話だったけどどうにも一つ物凄く煮え切らない事がある。
「ゆき乃しぇんぱい、おく、た」
「「「きゃああああー!!!!」」」