ネコと哲也先輩2


ロスから戻ってきた直人は、人材育成課って新しくできた新人を育てる部署の部長って役付きとしてこの東京本社に配属された。ホテルマンとしての作法やマナー、接した方、立ち振る舞い、言葉遣い…等々ありとあらゆる技を身に着けて戻ってきたから、当たり前に社内では話題になっていた。

私みたいな行き遅れ気味の希望の星かのよう、その人気を増しているなんて。


「顔色よくねぇな。あんま具合よくない…正解?」
「…外れ。元気だよ、至って。」
「ばーか、俺の目を誤魔化せると思うなって。何年見てきたと思ってんだよ。今日は打ち合わせ無しだ。さっさと帰って寝ろ。」


ポンポンって直人の手が私の頭を優しく撫でた。本当は微熱があって頭も痛くてしんどかった。でも一社会人がただの風邪ぐらいでへこたれるわけにはいかない。午前中から式の打ち合わせも3件入っていたし。なんとか今日をのりきらなきゃ…ってスタミナ定食を頼んだものの、箸すら進まなくて。


「…本当は喋るのも億劫なんだろ?気分もよくない。帰って寝たい…。正解?」
「…―――正解。」


箸を置いてお茶を飲む私から、スタミナ定食を横取りされる。


「代わりに食ってやる。」


そう言った直人はみかんゼリーとポカリを私の前に差し出した。風邪を引いた時はみかんかパインのゼリーしか食べられないことを誰よりも分かっているのはこの直人だ。

これなら食べられる。


「ありがとう。」
「おう。途中でやばかったら呼べよ。研修は亮に代わって貰えるから、病院でもドライブでもどこでも連れてってやるよ。」
「…うん。大丈夫。」



あまりに自然で、あまりに普通で、私達の三年間すらなかったかのように思えてしまう。一人で泣けもせずそれでも逢いたくて毎日必死で頑張ったあの二年間と、それをゆせに全部受け止めて貰って、ゆせに愛を貰ったこの10か月。

なかったように思えても、なかったことにはできないよ。


「御馳走様。」


立ち上がろうとした私の手をそっと握る直人。



「雪乃。」
「………、」
「困らせて悪いと思ってる。勝手言って悪いとも思ってる。けど…雪乃のいない家は寂しいよ。俺一人じゃ、寂しいんだよ。…戻ってこい、俺んとこ。」


吐き出すみたいに小さく言う直人。どうしてそれを今言うの?


「ずるいよ、直人さん。」