アニヴェルセルから出ると、ちょっと疲れたんだろうえみを連れて岩ちゃんはタクシーで帰って行った。まだ安定期じゃないし、つわりも出てきてるし、打ち合わせも時短でやらなきゃなぁーって。
「会社からだ、なんだろ。ちょっと待ってて雪乃。」
折り畳み傘を私に手渡した直人は、軒下でスマホを耳に当てる。雨が降っているせいで、直人の声が聞こえなくて、その姿をボーっと見ていた。
煙草を吸いたいのか、手が落ち着かなくて。そーいう癖、変わってないなぁなんて。
しばらくしてスマホをしまった直人はちょっとだけ眉毛が下がっていて。あれ?なんかあった?
「直人さん?どうかした?」
一瞬だけ目を泳がせた直人だけどすぐに笑って「なんでもねぇよ。」私の手から傘を奪い取った。そう言うもののなんとなく気分がのってないのも分かってしまう。
私が濡れないようにって、こっちよりに傘を持つ直人の手に自分の手を重ねた。
昔よくこうして相合傘をして憂鬱な雨の日も楽しくなるよーに!って、そんな事を思い出した。
「雪乃?どうした?」
「分かるよ。いくら隠そうとしても分かるんだから。直人さんが何か重たい事抱えてる顔なんて。私だって本気で好きだったんだから、舐めないでよ!」
…小さく微笑んだ直人は「参ったな。」一つ息を吐き出した。
それは突然でなんの前触れもなくて…
「2週間ロスに戻ることになった。悪いな、」
ポンッと私の頭に手を乗せた。なに、それ?意味わかんない。直人の手をギュっと握る。
「いつ?」
「来週から。岩ちゃん達の式は…雪乃に任せる。なんかあったら連絡してくれりゃ、」
ぎゅ、ぎゅ、と強く握る私に直人が言葉を止める。
「…また私を置いていくの?」
自分でも馬鹿だなって思う。何言ってんだ?って。だけど感情が溢れて止まんなくて。こんな気持ちになりたくなんてないのに、涙が溢れる。だから直人がほんのり目を見開いた。
「雪乃お前、」
「また私を捨てるの?」
瞬時に離れたくないって思うなんて。直人との空間がどれ程居心地がよかったのか、気づきたくなんてなかった。
「バカヤロ、そんな訳ねぇだろ!二度と離さねぇよ!」
直人の温もりに全身包まれる。傘がコロンと転がったけど、直人から離れるなんて事が、できなかったんだ。
どうかこの雨で私達の事を、隠してほしい――――――